気づかなかった自分も…。
どうかとは思う。



気持ちの行く先




『姉ちゃん?
今、寝てるけど……?』
一週間以上、姿を見ない。
それに心配になって、仕事の休憩時間、携帯に電話をかけた。
二度の呼び出し音がして。
そして出たのは…あいつの弟だった。
「寝てる?」
やっぱり病気か…と思いつつ、問う。
まだよくならないのかもしれない。
そう考えると、途端に不安になった。
そんなに悪いのか?
と。
そんな風になる前になぜ、俺は気づかなかった?
と、自分に問いたい気持ちにもなった。
『そ。だいぶいいんだけど…まだ寝かせてる。無理してたから、姉ちゃん』
「そうか……」
声を抑えつつのその言葉に、尽があいつの部屋にいることがわかった。
たぶん、看病のために部屋にいた時に、携帯が鳴って…それで出たんだろうとは思う。
ディスプレイに表示されたのが、俺の名前だったから。
それにしても……。
「無理、してたのか…、あいつ」
ぽつりと、言葉が出る。
無理してた。
その事実に、唇を噛み締める。
『ん?
ああ…、学校とか、外じゃ、絶対に出さないようにしてたからなぁ……。迷惑かけたくない、とか言って』
「迷惑って…誰に?」
『誰って…、友達とかじゃねぇの?』
「………」
『あと、葉月』
「俺?」
『あたりまえだろ?
友達だけなら、学校だけがまんしてりゃ何とかなるだろうが。でも、バイトまで無理して行ってた。図書館で毎日勉強してくるのに、それはして来なかったくせにさ』
「………」
言われて、気づいた。
そう言えば、ここの所、あいつは…図書館には行かずに真っ直ぐに帰っていた。
俺だって、それは知っていたはず。
それを聞いたことだってあった。
付き合うと届けたことだって。
けれど、あいつは曖昧に笑うだけで、答えなくて。
いいよ、と笑うだけで。
俺も…一緒に帰れるというそれだけに満足して、無理に聞き出そうとはしなかった。
思い出して、眉根を寄せる。
言われて気づくっていうのは、どうも嫌だ。
『だからって、家族に心配かけてちゃ、意味ないとは思うんだけど』
「そうだな」
答えながら、後悔はやまずに俺の中にあって。
いつも見ていたはずなのに…と。
『一回ぐらい来てくれよ? たぶんそれだけで元気出ると思うからさ』
「どうして?」
『どうしてって…誰も来ないんだよ、姉ちゃんの友達』
「……どうして?」
腰を浮かし気味にして、問う。
おかしいと即座に思った。
あいつには、多くの友達がいて…その中で笑っていたはずで。
それなのに、誰も来ない?
『怖い声出すなよー。ってか、先に連絡入れてくるんだよ、姉ちゃんの携帯に。メールが入って、姉ちゃんが起きた時に返信してる。でも、全部断ってんだ』
「………」
『風邪が感染るといけないから、とか…そういう理由で。自分でそう言ってるくせに、ただ寝てるだけじゃつまらないって、わがまま言うし。もう本当にわけわかんねぇ』
「そうか」
光景が目に浮かぶようで、わずかに口元が緩んだ。
腰を元のように落ち着けて、肩を落とす。
『で、オレが相手してんだけど。オレだって暇じゃないんだよなぁ。だからさ、葉月』
「わかった。近い内に時間作って…行く」
電話の向こうで、小さく喜んでいる声が聞こえる。
尽は本当に姉思いだと思う。
その尽が、俺に協力してくれているということは、本当に…ありがたい。
『姉ちゃん、本当にもうだいぶいいんだ。あと少し、熱が下がればいいぐらいで。来週からは行けんじゃないか?
学校』
「そうか」
『うん。だからさ、ちゃんとストッパー入れてやってくれな?
オレじゃ聞いてくれないんだよ』
「無理しないように、か?」
『そうそう』
「わかった」
嬉しそうな声にかぶるようにして、スタッフの声が聞こえた。
器材がまだ直らない、とかそんな声がする。
――さっき倒れたやつか。
視線を滑らせて、慌ただしく動き回っている人たちとその中心にある大きな塊と化してしまっている物を交互に見る。
一時間ぐらいなら、抜け出しても平気かもしれない。
「尽」
『あ?
何だよ?』
「今から行く」
『はぁ?』
「じゃ」
返答も聞かずに切って。
立ち上がる。
スタジオにいる人間、すべての目は――照明器材であるそれに注いでいた。
「控え室に行ってます」
「ごめんね、葉月ちゃん!」
カメラマンのそんな声。
うそを吐くことも、今は何とも思わなかった。
廊下に出ても、スタッフの目は俺には向いていなくて。
簡単に外に出られたことにほっとする。
「…行くか」
真っ直ぐにあいつの家へと歩き出す。
足早に。
そう言えば、あいつの寝顔をまじまじと見るのは初めてかもしれない。
いつも見られているから――ほんの少し、嬉しくて。
振り向かずに、俺は歩を進め続けた。

END

 

仕事を抜け出して、お見舞いに来てくれたので。
かーなーり、心配してくれたんだろうなぁ、とは思ったんですが。
気づかなかったような気がしてます、王子。
だからなおさら心配なのかな?
もちろん、情報提供者は尽。
仲良さそうだよなぁ。あの二人……。

にしても、珪くん一人称は難しいです…(泣)。

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