子供の頃に隠したモノ。
それを偶然、見つけてしまった。

そんな風にはじまった――休日。



隠しモノ




一冊の本をただ眺めていただけだった。
最初は。
それは父親の本で。
意図して置いていったのか、そうでないのかはわからなかったけれど、小さな頃にちらりと見た覚えがあって。
ただ、懐かしいと思った……それだけだった。
はずなのだけれど。
本棚に戻そうとした瞬間、彼はそれを手から落としてしまって。
取り上げようとした瞬間。
その拍子に落ちたものに、少しだけ――驚いた。
何の変哲もない――しおり。
四つ葉のクローバーの、そのしおり。
たどたどしい文字で『
Kei』と下には書かれている。
それにも、見覚えがあって。
「こんなところにあったのか……」
呟いて、手にして。
本は棚へと仕舞う。
それへと視線を注ぎながら、歩いて、ソファへと腰かけて。
小さく、ふっと笑みを零した。
小さい頃の、一番の――宝物。
誰にも渡したくはないから、とどこかに隠したはずで。
けれど、隠したことさえ、今の今まで忘れていた。
あの頃は鮮やかだったはずの、緑色のリボンは、もう色褪せていて。
少し――汚く見えて。
それでも、これを作った思い出は、きちんと、胸の中に……甦って。
その時、一緒だった少女は、今、ここにはいないけれど。
二人で一緒になって、四つの葉を持ったものを探して。
二人で同時に、同じものに声を上げた。
だからと言って、二人で分けるわけにもいかなくて。
もう一つ探そうと言ったのは、きっと、自分。
小さい頃の――自分であったはずで。
少女は嬉しそうに頷いていた。
それからまた、一生懸命に探して。
見つかったのは、帰る直前。
二人で笑って、少女を送り届けて。
クローバーを手にしていたことを見た、少女の母親が、しおりの作り方を教えてくれた。
今度、一緒に作ろうね?
小さな約束に、頷いて。
次に会った時のためにと、あの頃の自分は、押し花を作る容量で、あの本にクローバーを挟んだ。
形を崩さないようにと、気を付けながら。
祖父に――手伝ってもらいながら。
材料を用意してきたのは、少女の方で。
教会で、二人で教えてもらったことを思い出しながら作っていた。
厚紙にパンチで穴を空けて。
のりで、押されて乾いたクローバーを貼りつけて。
リボンを穴に通して、結んで。
二人一緒に、できたと叫んで。
笑っていた。
それから、宝物にした。
世界にただ一つのものだから。
少女との、数少ない、思い出だから。
「………」
ふぅと息を吐いて、彼は背もたれに身体を預ける。
見えたのは真っ白な天井で。
彼は瞳を閉ざした。
名前を刻んだのは、帰ってきてから。
祖父にも気づかれないようにと、こっそり刻んで。
そして、隠した。
何の変哲もない、手作りのしおり。
だけれど、手作りゆえに、世界でただ一つのもの。
少女の笑顔も一緒に思い出せる、唯一のもの。
あの時のあの笑顔は、これでなければ思い出せない。
長々と息を吐く。
これを宝物に決めたのは、あの頃の自分。
そして、これを隠したのも、あの頃の自分。
けれど、見つけたのは…今の自分で。
本当の意味に気づいたのも、今の自分。
ここにいる、自分。
本当に隠したかったものは、今、ここにはない。
本当の宝物は、手を伸ばしても掴めない。
あの頃の宝物は。
あの頃、隠し物へと変わって。
そして今、少女への想いの、証になって、ここにある。
いつかは会えると、そう願ってやまない相手。
その少女への、想いの。
証――。
時計の秒針だけが、着々と時間を刻んで。
その音だけが、耳には入ってくる。
それを振り切るように、彼は腰を上げた。
宝物は、宝物らしく。
また…隠しておこう。
考えて、引き出しの一番奥へ。
そして、何事もなかったように。
彼はその部屋をあとにした。

END

 

本当は、このあと主人公ちゃんと待ち合わせー、てな内容にしようかとも思ったんですが。
それじゃありきたりなのでやめました。
最初に考えたのは、こっちですし。
そのままそのまま。

元ネタは林明日香のアルバム『咲』の中の『隠し物』……。

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