どうしてなのかは わからない
それでも 心は求めてしまう

彼のそばにいること
彼がそばに いてくれていること




今が一歩 手前なら





家が隣りだから。
たまたま外に出たら、同じで。
だから、成り行きで一緒に買い物に来た。
知り合いに会ったら、そう言おうと、彼とは口裏を合わせてる。
付き合ってるわけじゃないけど。
それでも、彼は私を守るために、そういうことにしようと言ってくれた。
その気持ちが、なぜかとても、嬉しくて。
手とか繋いでもいいんだけどな…。
なんて思っていても。
その気持ちの出所が、わからない。
好きじゃ、ないんだとは思う。
でも、似たような気持ちには、なっているんだと思う。
だからそんなことを、考えてしまうんだと思う。
自分から、触れたいだなんて。
「何か、食いたいもの、あるんスか?」
小さな声。
それに、小さく笑って。
私は首を横に振った。
橘が作ってくれるなら、何でもいいよ。
そう、付け加えて。
「…困るじゃないスか、それ」
「だろうな」
「わかってて言ってるんスか」
趣味悪いっスね。
加えられた言葉に、薄く笑って。
そんな私を置いて、彼は歩を進めていく。
その背中を追いかけて。
でも、少し離れた位置から、彼を見続けてた。
何が、とか、わからない。
押し切られた感が、なくもない。
彼の根気に負けた。
そんな気も、しなくもない。
でもそれが、嫌ではない自分がいて。
全くと言っていいほど、違うのに。
それでも確かに、惹かれているのだと。
それは……否定出来なくて。
出来ない自分が、いて。
そんなことを考えていれば、彼が不意に、振り向いて。
私をしっかりと、視界の中心に捕らえてから、口を開いた。
「…食えるんスか?」
今度は、別の問い。
声の小ささは、別の理由から。
さっきとは、別の理由から。
「大分…。最近は、いい感じ」
隣りで、囁くように言う。
目の前にあるのは、緑の野菜で。
その中の一つを手に取れば。
それは、彼の手によって、かごの中へと、入れられた。
「橘?」
「何スか?」
「別に…食べたかったわけじゃないよ?」
「わかってるっスよ」
「?」
「俺が作ろうかなって思ったものに、必要なんで」
向けられた瞳の優しさに気づいて。
目が、離せなくなって。
ふっと、笑みへと変わった表情にも、私は笑い、返せないままで。
………。
「橘」
「何スか?」
ゆっくりと歩きはじめた背に、言葉を投げる。
今度はぴったりと、くっついて。
「私……何か、おかしい」
「え?」
歩みが止まる。
それに、私も歩みを止める。
視線が注がれてるのがわかる。
でも私は、顔を上げられなくて。
「どっか、調子悪いんスか?」
「………」
「先生?」
うん、その問いかけは、正しい。
その呼び名も、今は正しい。
ただ……。
前髪を、軽くかき上げられて。
額に、大きな手が触れる。
それに、小さく、息だけで笑って。
「身体は…平気」
そう届ければ、ほっと、安堵した息。
身体は…平気。
ううん、平気じゃない。
離れていった手を、追いかけそうになってる私がいる。
「先生?」
「私……橘のこと。ちゃんと、よく知りたい」
「…え……?」
手は、取れなくて。
代わりのように、手首に触れれば。
彼の手が、私の手を取って。
いつの間にか、店を出てしまっていた。

END

 

次は剣ちゃん視点で。
龍太郎、本気で置いてけぼり。
巻き返しは…なさそうな感じです……ね。
こんなはずでは……(後悔しても、いまさら)。

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