ぼんやりと。
ほんの少しだけ、考えてた。

でも、いいかなって。
そう思ってたのも、本当。



本音




台所に立って、小さく息を吐く。
テーブルの上に並べられているのは、これから作る、チョコレートケーキになるための材料で。
タルトにしようか、すごく迷ったんだけど。
でも、失敗するの、怖かったから。
結局、去年と似たようなケーキに、落ち着いてしまってた。
まずは、チョコレートを削らないと。
考えて、手を伸ばす。
と。
「あのさぁ」
そう、声が届けられた。
顔を上げれば、その声の主は、そこにいて。
頬杖をついて、わたしを見ていて。
「…なぁに?」
「チョコレートに固執しなくても、いいんじゃん?」
促せば、そんな言葉。
それは――わたしも考えていたけど。
「でも、明日はバレンタインだし」
「………」
「バレンタインには、チョコレートって、決まってるし…」
「それはべつに、世界共通じゃないじゃん」
「そう…だけ、ど……」
「渡す相手だって、姉ちゃんが本命のをくれるって、わかってんだからさ」
「………」
「チョコに固執しなくても、いいんじゃねぇの?」
いまだに頬杖をついたまま、尽は言って。
わたしは、自分の方へと、無意識に戻してしまった手を、ただただ見てた。
チョコレートだけじゃ、物足りないのはわかってる。
わかってるけど、どうすればいいのか、わからなかったんだもん…。
小さく頬を膨らませて。
わたしは軽く、こぶしを握る。
それでもと、チョコレートの塊に手を伸ばせば。
「ま、作り終えてから考えてもいいんじゃねぇの?」
そんな言葉を落として。
尽はわたしに、背を向けて。
部屋を、出ていった。



チョコレートケーキを作るはずだったのに。
目の前にあるものは、トリュフで。
わたしは小さく、息を吐く。
買い物に、わたし自身が、行きたいだけ。
チョコレートだけじゃ…って。
わたし自身が、思ってしまっている、いい証拠。
包装は、あとにしよう。
考えて、それを冷蔵庫の中に仕舞い込んで。
わたしはエプロンをはずす。
それをいすにかけて。
もう一度、小さく息を吐いた。
何がいいだろう?
考えて。
エプロンをかけたいすの、隣りへと、腰を下ろす。
このまま、何も考えずに外へと出て行ったら。
きっと、結局、思いつかないままのような気さえして。
だから、少しでも何がいいかと考えてから、とは思うのだけれど。
全然、浮かばなくて。
どうしたらいいのかも、わからなくなってくる。
両手で頬杖をついて。
息を吐いて。
ちらりと時計を見れば。
まだ、針は三時を指していて。
だからまだ。
今、決めてしまえば。
買い物には、十分な時間。
「………」
時計から目を逸らして。
今度は、テーブルの上に、視線を落とす。
何がいいんだろう?
そればかりが、頭の中を、ぐるぐると回ってる。
思い浮かぶのは、彼の笑みばかりで。
優しい、微笑みばかりで。
わたしはまた、小さく嘆息。
驚いても、ほしいと思う。
嬉しさだけじゃなく。
驚きも。
そのあとで、喜んでくれたなら。
本当に、嬉しいと思うから。
わたしも。
「どうしよう…?」
考えて。
考えて。
でも、わからなくて。
それでもわたしは。
静かに腰を上げて。
出かける用意を、しはじめてた。

END

 

本当に好きな人には、チョコレートだけじゃ物足りないですよね?
ってことで、こんな話。
何がいいか考えた末に。
樹自身、何を、というのがわからなくて。
曖昧にしてしまいました……。
来月困るっていうのに(汗)。

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