朝起きて。
カーテンを開けて…窓を見て。
露に濡れて、曇っているそこに、指を走らせた。
すぐに消えてしまうと。
わかっていながら。



ひみつ




何を書こう?
なんて考えなくても、彼女の指は、その字を綴って。
いつも、彼女が呼んでいる、その呼び名を、小さく記していた。
見つけられないように、開け切ったカーテンの。
その、影に。
書き終えた頃には、露は下へと伸びていて。
何を書いたかなんて、わからなくなっていたけれど。
それでも、彼女は満足そうに、くすくすと笑って。
見えないようにと、ほんの少しだけ、カーテンを引いて、踵を返した。

今日は彼が迎えに来てくれるから。
気づかれてしまうかもしれない、なんて、ちらりと考えて。
彼女は窓の、カーテンで隠れた部分を振り返る。
けれど。
ここは二階だし。
下からは、見えないはずだし。
それに、きっと。
彼が来た頃には、消えてしまうだろうから。
大丈夫と、小さく呟いて、彼女は仕度を進めていく。
だから、願うことは。
弟や母親が。
彼女がいない時に、この部屋に入って。
それを――見つけてしまわないこと。
消えてしまったといっても。
よくよく見れば、わかってしまうだろうから。
それに、とりあえず、露は拭き取ったけれど。
その部分だけは、拭いていないから。
母親がそこを、拭き取ってしまわないこと。
それを願いながら、彼女は窓に近づいた。
彼が来るまで、きっと。
あと五分。
引いたカーテンの、陰に隠れるように入り込んで。
朝書いた、彼の名前の下に。
はぁーっと、強く息を吹きかけて。
窓を……曇らせて。
その小さなスペースに、彼女は新たな文字を書き加えた。
見られないこと。
拭き取られないことを、前提にして。
そうして書き加えた文字は。
見る見るうちに、消えていく。
それでもやっぱり、彼女は嬉しそうに、くすくすと笑って。
階下で鳴ったチャイムに、それを隠すように、またカーテンを引いて。
窓のそばから離れた。
「姉ちゃん、葉月来たぞ?」
「うん。すぐに行く」
扉を開けずにそう言ってくれた弟に、ほっとして。
彼女はバッグを手にする。
それから、瞳に映したのは、カーテンで。
思うのは、その向こうに書かれた、今は見えなくなってしまった、文字達で。
いつか、言葉にして、彼に伝えることができれば、なんて。
彼女は考えながら、ドアのノブに、手をかけた。

END

 

樹がやって、くすくすと笑っちゃったので。
主人公ちゃんにもやってもらったというだけ(おい)。
途中まで、男の子誰でも大丈夫じゃーん、な代物になってましたが。
きちんと珪くんで頭の中は動いておりました。

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