嫌なんじゃなくて。
なんて言うか…。
おもしろくない?でも 応援してあげたいんだ。
そう言ったら。
母さんは笑ってた。
変考
二階の、自分の部屋のベランダに出た。
理由は……姉ちゃんの声が聞こえたから、なんだけれど。
まぁた、葉月と一緒だし。
いつもと同じ光景に、眉根を寄せる。
姉ちゃんのそばにいるのは、オレもよく知っている人物で。
楽しそうに笑う二人に、ため息を零した。
べつに、嫌なわけじゃない。
でも、おもしろくない。
思いつつ、ため息を吐く。
と、部屋のドアが叩かれた。
視線の先を変えずに、短く返事を返せば。
「洗濯物、持ってきたんだけど」
って言いながら、母さんが入ってくる。
ベランダに出ているオレを見て、ため息を吐いたのか、背中からはそんな音が聞こえた。
「暑くないのー? 部屋の中、こんなに涼しいのに」
「平気」
「…何見てるか当ててあげようか?」
「べつにいいよ。合ってるから」
母さんの方を見ずに言えば。
母さんもベランダへとやってくる。
それから、「やっぱりね」なんて、紡いでた。
「嫌?」
「そうじゃないって」
「じゃあ何だって言うのよ?」
「おもしろくない…のかな?」
「…取られちゃうものね? 尽くんからすれば」
「……そっか」
「? そっかって?」
「淋しいのかな? オレ」
零せば、母さんは驚いて。
それでも、くすくすと笑ってた。
頭を撫でられて、オレは母さんを睨むように見る。
「母さん…」
「本当に、姉思いね? 尽は」
「………」
「大丈夫よ。珪はあなたのことも考えてくれるから」
「…だとは思う……けど」
「けど?」
「やっぱり、何か…な」
ふっと、柔らかく笑って。
母さんは視線を落とした。
二人の方へ。
「みんな…ああやって巣立っていっちゃうのよねー」
「母さんも淋しい?」
「そりゃあね。でも、優菜も尽も、いつまでたっても、私の子供だもの。淋しがってばかりもいられないわ」
「………」
「手のかかる子ほどかわいいの。尽みたいにね」
「…母さん」
呼べば、母さんはくすくす笑いながら、部屋へと戻っていく。
けど、その中ほどで足を止めた。
「それに、珪も私の息子だもの。同じように、尽のお兄ちゃんなのよ?」
それだけ言って、母さんは部屋を出ていって。
葉月が兄ちゃん?
言われたことを反芻してた、オレを置いて。
考えたことなかったけど。
そっか。なんて、変に納得してた。
でも、それは嬉しいかな、とか。
思い返したら。
オレは玄関の前で、未だに話し続けてる二人に、視線を戻す。
オレが今まで、姉ちゃんのことを応援してた理由。
それはずっと、姉ちゃんが恋愛に疎くて。
はっきり言って、心配だったから、なんだけど。
でも今は。
姉ちゃんにも好きな人ができて。
姉ちゃんなりに、がんばってて。
だからもう、心配することは、はっきり言って、ないかもしれなくて。
…ってことは。
オレも、姉ちゃんの恋を応援する理由を、変えなくちゃいけないのかもしれない。
あの葉月が、本当に、オレの兄ちゃんになってくれるように。
「それもまた、楽しそうだよな」
笑みを浮かべて、見続けて。
姉ちゃんを取られる、っていう…それは、淋しいけど。
葉月が兄ちゃんになることは、嬉しいから。
「姉ちゃん! それから葉月も! 早く家に入れよな! そんなとこにいたら暑いだろ!」
声をかけて、見上げてくれた二人に、笑みを向けた。
それから、背中を向けて。
部屋へと入ったけれど。
二人をむりやり、家の中へと入れよう、って考えて。
すぐに部屋を出て、階段を降りる。
玄関へと向かうオレに。
擦れ違った母さんは、くすくすと笑って。
「珪に、夕飯食べていきなさいって、言ってよ?」
「むりやり入れる! で、帰さなきゃいいんだろ?」
「…そうね。頭いいわねー、尽」
ぼやかれた言葉に、少し笑って。
それから、玄関を開けた。
「ほら葉月! 姉ちゃんも! 母さんが夕飯作るの、手伝えってさ!」
END
|