変わっていくことは確かに怖いけれど
彼女が変えていってくれるのならば 受け入れようと思った
変化
下駄箱を開けて、あふれ出てきたものに、彼は固まる。
ゆっくりと視線を下げる。
と、そこにはかわいらしくラッピングされたものが転がっていた。
顔を上げて、下駄箱の中を見ても…それはまだ入っていて。
上履きは見事に埋まっていた。
大きく息を吐き、彼は上履きへと手を伸ばす。
叶わないことはわかっていたから、とりあえず、中に入っているものを腕に抱えて。
するとそこへ、袋が差し出された。
「おはよう、珪くん」
「ああ…、おはよう」
いつもと同じように挨拶をして。
そして…彼女の意図がわからず、彼は待つ。
「それ、入れて?」
「あ、ああ」
抱えていたものを入れる。
と、彼女はしゃがみこんで、彼の足元にある物を袋へと入れていく。
すべて入れ終わり、彼女はそれを彼へと渡した。
「はい」
「ああ…、悪い」
「紙袋、持ってきて正解だったね?」
くすくす笑いながら、彼女は彼に背を向ける。
その隣りに並びながら、彼は口を開いた。
「どうして?」
「昨日ね、タマちゃんが言ってたんだ。葉月くん、ちょっと柔らかくなったねって」
「柔らかく……?」
「うん。話しかけやすくなったって。前に比べたら」
「………」
「だからね、今日…大変じゃないかなーって思ったの」
袋を持ち上げ、中身を覗き見る。
「もしかして…今日、何の日か忘れてる?」
「…? 何かあったか?」
「もう……」
鞄と一緒に小さな紙袋を提げている彼女は、小さく小さくため息を吐く。
その姿を見ても、彼は眉根を寄せただけだった。
彼の表情を見て、彼女は諦めたように、苦笑を漏らす。
「今日、バレンタインだよ?」
「……そうだったか?」
「そうなの! もう、そんなこと言ってると、あげないよ?」
膨れる彼女に今度は彼が苦笑して。
「くれるのか?」
「そう思ったけど、あげません!」
「悪かった」
「本当にそう思ってる?」
階段を上りながら、彼女は一歩後ろを付いてくる彼を振り返る。
いつ、彼女が踏み外してもいいように気を使いながら、彼は頷いた。
それに満足そうに笑顔を見せ、彼女は踊り場で、まだ階段を上り切らない彼へと身体を向ける。
「じゃあ、これあげる」
小さな紙袋を差し出して、彼女は微笑う。
それを「サンキュ」と言葉を発して受け取り、彼は階段を上り切る。
そんな彼の隣りに並んで、彼女も歩を進め出した。
「去年よりもね、かなり上手にできたと思うんだ。尽もおいしいって言ってくれたし」
「あいつ……」
「うん。味見させたの。おいしくなかったら、作り直そうって思ってたから」
「そうか」
「でも、おいしいって言ってたから、大丈夫だと思う。自分でもね、そう思ったし」
にこにこ笑いながら、彼女は教室へ伸びる廊下を歩いていく。
その隣りに付いて歩きながら、彼も控えめではあるけれど、笑顔を覗かせていた。
「で、さっきの話の続きだけど」
教室へと入っていく。
そして、目の前のできごとに、彼は足を止めた。
彼女はといえば、鞄の中を探って、「紙袋足りるかなぁ…?」と呟いている。
「何だ? あれ」
「だから、珪くんが柔らかくなったから」
「………」
「受け取ってもらえるかもって思った女の子が増えたってことかな?」
「……去年はなかった」
「去年はほら、近寄りがたかったからじゃない? 今年はそうでもないってことだよ、きっと」
「………」
はっきり言って、迷惑。
とは言えずに、彼は机へと足を動かす。
そして、自分の机の上に置かれたものを見て、ため息を吐いた。
「来年はもっと増えるかもね」
言いながら、彼女は持参していた紙袋にそれを詰めていく。
ラッピングを壊さないように、丁寧に丁寧に。
そしてそれを「はい」と笑顔付きで彼に差し出した。
「……どうも」
渋々受け取り、席に着く。
「でも、本当に珪くん、とっつきやすくなったんだなって思うよ。話しかけてくる人、増えたでしょう?」
前の席に横向きで座り、彼女は笑みを浮かべて、そう言う。
「まあな」
「でしょう?」
嬉しそうに笑い、彼女は立ち上がった。
自分の周りには、確かに人が増えた。
となればそれは…。
「おまえのおかげだな」
素直に届ければ、彼女は首を傾げて見せた。
少しの間、考えて――。
「チョコレートをたくさんもらえるのが?」
「…違う」
「あれ? 違うの?」
見当違いの答えに息を吐いて。
彼は先程受け取った小さな紙袋から、その箱を取り出した。
「あ、今年もね、あんまり甘くないようにしたから、大丈夫だと思うんだけど」
「ああ。悪い」
彼が言った直後。
チャイムが鳴り響いた。
それに立ち上がり、彼女は「あとで食べてね」と言葉を残して、自分の席へと腰かける。
彼女が席に着いたのを確認してから、彼は手に持っていたものを元の場所へと仕舞った。
ゆっくりと周りが変わっていく。
それはもちろん、彼女のおかげで。
感謝…しないとな。
一ヶ月後のその日に何を送るか。
それを考えながら、彼は空の青へと視線を投げた。
END
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