だって、仕方ないじゃない?
その日は暇じゃなかったんだから。




happy?





「葉月くーん! お待たせ……って」
いないじゃん!
ガランとした教室に、目当ての姿は全然なくて。
わたしは急いで、踵を返した。
手に提げていたバッグを背負って。
携帯、取り出して。
走りながら、電話を掛ける。
もちろん、彼のそれへ。
電源を切っていないことを願いつつ。
出てくれなくても、とりあえずいい、って思いながら。
画面に映し出された、わたしの番号を見る――そのわずかな間、だけでも。
彼が止まってくれていれば、それでよかったから。
無人の階段を、急いで駆け降りて。
昇降口で急いで、靴に履き替えて。
そうしながらも、携帯は耳に当てたまま。
『……はい』
彼が出たのは、コール、十八回目。
わたしが校舎を出た、その時だった。
「田端です! ていうか、『はい』、じゃないの! 今どこにいんの?」
『……道の上』
「あのね?」
走りながら、言葉を紡いでいく。
結構辛いけど、仕方がない。
「ま、どこでもいいや。そこで待ってて!」
『嫌だ』
「何で? 大体さ、僕、教室で待っててって言ったじゃん! 用事、すぐに終わるからって!」
『…………』
「もしもーし!」
『嫌な予感がしたから…』
「………」
彼のそんな返答に、言葉を失って。
それと同時に、点滅し始めた信号に、慌てて、横断歩道を渡った。
「…まぁ、いいや。とにかく、そこで待っててよ?」
『嫌だ』
言葉を聞いたあとで、また走り出す。
「待っててください」
『嫌だ』
「理由は?」
『さっき言った』
「納得できないので、他の理由をお願いします」
彼の帰路は知ってる。
だからわたしは走れる。
けれど、いつも別れる場所より先は、少し微妙だったりして。
そこまで行っていないことを祈りつつ、頭の中で道を確認しながら、会話して。
そうしながら、走っていく。
耳に当てたままの携帯から、返事はない。
律義に考えてくれているところが、彼らしいとか、思ったりして。
わたしは小さく、笑みを零した。
けど。
「やっぱいい」
突然そう言えば、前方に見えた彼は、視線を上げたみたいだった。
理由はそう。
「だってもう、追いつくし!」
言うと同時に、横に付く。
最後の一歩は大きくジャンプして。
彼の腕を掴んで、通話も切った。
そのまま、身体を折って、肩で息をして。
――彼の姿を見つけてしまえば、こっちのもの。
「田端……」
わたしの名前を紡いだ彼は。
驚いてたみたいだったけど、すぐに諦めたのか。
息を吐いてた。
そりゃもう、長々と。
わたしも一つ、息を吐いて。
それから、身体を起こした。
「さぁ、行こうか」
「どこに?」
「君の家」
「………」
返答のないまま、彼を引っ張るように、歩き出して。
その時に届けられたのは、やっぱり。
ため息――だった。


借りたオーブンで焼いたケーキに、クリームで飾りを付けながら、彼の問いに口を開いた。
本音を言えば、こういう時に話し掛けられたくはないんだけど。
「だって、仕方ないじゃん? 一昨日は二人とも、用事あったし」
「一昨日?」
「十月十六日って、一昨日でしょ? 君の誕生日。プレゼント、渡したんですけど?」
「…だったな」
「でもバイトで、何も出来なかったし?」
「祝ってくれ、なんて言ってないだろ? だから、祝ってくれなくていい」
返答に苦笑する。
あまりにも、彼らしくて。
「でも、僕は祝いたい」
「………」
「友達だし。嫌なら、そういう意味で食べなきゃいいじゃん?」
終わって、わたしはそれを持ち上げて、踵を返す。
彼が嫌そうに眉を顰めてるのに、ふっと笑って。
それから、彼の目の前へと歩を進めた。
テーブルの上に、それを置いて。
「蝋燭立てる?」
「いらない」
「…あっそ」
つまらない、なんて思いながらも、一本だけ、真ん中に差した。
「おまえな……」
「いいじゃん。一本ぐらい」
「………」
「ライターとかある?」
「ある…けど、おまえには使わせない」
「何でー?」
「火事になる」
「ヒドッ!」
「それから、歌うなよ」
先手を打たれて、黙り込む。
小さく舌打ちしたのに、彼は笑ってた。
だからわたしも、笑う。
嬉しい、とかじゃなくて。
楽しいから。
一本だけのそれに、彼の手で、火が灯されて。
さっき、言われたこと。
それを無視して、歌ってあげてもよかったんだけど。
たった一言を口にした。
「葉月くん。誕生日、おめでとー!」

END

 

20031012のイベント発行のペーパー用にと書き下ろしたSSです。
ペーパーに玲(オリ主)を載せてもいいんだろうか?
と、考えたりもしましたけど。
結構受け入れてもらえていたみたいなので、よかったのかなぁ…という感じでした。

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