彼女は 周りのことを 見過ぎるから

だから
そのことで大きく肩を落とすことも

いつかは
あるんじゃないかと
俺はそう 思ってた




habit





特に、約束のない日曜日の商店街で、俺はその姿を見つけた。
どこか宙を見つめて。
それから、視線は下を向く。
顔も俯けて。
ちらりと、横のショーウィンドウを瞳に映したあとで。
肩を落としていた。
「………」
その一部始終を、俺は足を止めてまで見ていたのだと知ったのは、その時になってからで。
目の前の店に入ろうとしていたことさえ――その時まで、忘れていた。
「……あいつ…」
彼女が見た、そこは。
確か、ジュエリーショップだったはずで。
彼女が見たそこには。
いくつかのアクセサリーが、ディスプレイされていたはずで。
「……」
短く息を吐いて、俺は踵を返す。
彼女のそばへと、行くために。
たぶん。
たぶんだけれど。
彼女がほしいと思ったものが、その中にはあったんだろうと思う。
けど。
使ってしまったから、金がなくて買えない。
そんなところなんだろう。
近づいていく俺には、一切気づかずに。
彼女はそこに、居続けて。
アスファルトに視線を注いだまま、動かなくて。
「田端」
「にゃ!」
急に声をかければ、彼女は大きく肩を上げて、驚いてた。
それでも、恐る恐ると言った風に、顔を上げて。
俺のことを、見てくれた。
「…葉月、くん?」
「? どうした?」
「……急に話し掛けるの、禁止」
「無理」
突き放せば、彼女は俺から視線を外して。
眉根を寄せる。
そんな彼女を横目に、ショーウィンドウを視界の中央に据えれば。
思った通りの物が、そこには並んでいた。
「どうしたの?」
「おまえが見てたんだろ?」
「………」
「どうしたんだ?」
「…別に?」
「………」
「………」
彼女をじっと見れば。
ふいっと、顔は逸らされる。
それでもじっと見続けていてもよかったのだけれど。
俺はまた、身体を向けている方に、顔を向けた。
「………」
ハートのペンダントトップには、食いつきそうもない。
彼女の性格上。
星が連なっているブレスレットも、痛そうだとか何とか、言いそうだし。
だとしたら。
「…月の、トップの……やつか?」
「違う。羽の形の……」
「あれか」
言ってしまったことに気づいて、彼女は口を閉ざしたけれど。
俺は彼女の言った物を、瞳に映す。
鳥の翼の。
片翼だけを模した、銀色のピアス。
「あれが…ほしいのか?」
「………」
「そうなんだろ?」
「そうだけど…いいの」
「……?」
「だってほら、買われちゃったし」
彼女が指差した方を見れば。
それはディスプレイから、下げられているところで。
じっとそれを見ている彼女は。
ため息も吐かずに、静かなまま。
「――親友の話、したでしょう?」
「? ああ」
「その、親友の誕生日、もうすぐで…」
「そいつに?」
「ううん。それはちゃんと、買ったの」
ここで。
静かに、彼女は話す。
彼女の視線の先には、店員がいて。
店員が手にしているのは、さっきのピアス。
客に笑顔で勧めているのが、見えた。
「あれと同じデザインの、イヤリング」
「………」
「ピアスもあるって聞いて……。欲しいなって、思ったの」
「……」
「おそろいで、持ってたいなぁって」
その時にようやく、彼女は笑みを漏らして。
苦笑だったけれど。
苦いものを宿した、笑みだったけれど。
俺はそれに、目を細める。
「いつでも会えるわけじゃないから。どっかで繋がってたかったのかなって、今は思ってるんだけど。でも、お金なくってさ。無理だーって」
「…貸してやろうか?」
「いいの! 買われてっちゃうから、どうせ」
俺の顔を見て、そう言って。
彼女はまた、店内へと、視線を戻した。
透明なガラスの向こう。
少し、照明を落とした店内へ。
「あれ、一個しかないんだって」
「………」
「だから、どうしてもって、思ってたの。けど、ダメだったし。そばであの人が、欲しそうにしてたのも、知ってたから」
「田端」
「だから、いいかなぁって」
こいつの、悪い癖だと思う。
こういうとこ。
たぶん、金は、なくはない。
このあと、節約していけば、買えると。
彼女は考えていたはずで。
けれど、ほかにほしいと考えている人を、見つけてしまったから。
無理をすることを、やめただけ。
そうしてまでほしいと。
考えるのを、やめただけ。
目を細めた彼女の先には。
その商品を手に入れて、笑顔を浮かべた客の姿。
見せたくなくて。
俺は無言で、彼女の視界を、片手で覆った。
「葉月くん?」
「…ばかか?」
「……違うもん」
「違わない。ばかだ、おまえは」
下を向いた彼女の頭を。
視界を覆っているのと逆の手で、軽く叩く。
「バカじゃ、ないもん」
小さな声でそう綴って。
彼女は一度、洟を啜って。
そんな彼女を抱き締めたいと思ったことは。
きっと、勘違いなんだと。
俺は、そんなことを考えてた。

END

 

微妙な時期の話を書きたかったわけじゃないんです。
ただ、話の流れ上、そうなっちゃっただけ。

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