たった一人の弟だから
出来ることは やってあげたい産まれてきてくれて
ありがとう
その心を 思いを
伝えたい
いなければよかったのに
なんて
考えたことない
――っていうのは 嘘だけど
でも 感謝してるのは
本当だから
gratitude
彼の机の上。
そこに、雑誌を広げて置いた。
…ら、彼は、外に向けていた視線を、そこに落としてくれて。
「…?」
言葉もなく、眉根を寄せる。
「どれがいいと思う?」
「……は?」
「尽がね? このページ見てて。で、欲しいなーって、ぼやいてたのさ」
「………」
「視線の位置的には、この辺なんだけど」
右のページの、上の方を、指で円を書いて、示してみても。
彼は何も言わずに、そこに視線を注いでいるだけで。
わたしは彼の顔を見て。
同じように、眉間に皺を刻んでみた。
「…どうした?」
「聞いてる?」
「……聞いてる」
「じゃあ、答えようよ」
「どうして俺に聞くんだ?」
「……何となく?」
「……尽のだろ?」
「うん」
「じゃあ、尽に聞け」
ペシッと額を叩かれて。
わたしはそこを押さえる。
それから。
「聞けないでしょうが」
そう、言葉を落とした。
「どうして?」
「明日は尽の誕生日!」
「………」
「売ってるお店も、調べて。見に行って。けど、どれが欲しいのかわかんないから、買えなくて」
「…ああ」
「だから答えて」
この辺ので、いいと思うもの。
また、円を書きながら、彼に問えば。
彼は考えたあとで、これ、と、指で示してくれた。
よりにもよって、一番高いやつ。
「……これ?」
「これ」
「………」
雑誌を立てて。
見やすいように、向きも変えて。
じっと見る。
確かに、いいと思った。
わたしも。
でも。
これは高いから、ないでしょう、とか思ってたのに。
それは儚い願いで終わったか。
息を吐き出して。
雑誌を机の上に落ち着ける。
彼は両腕を机の端に置いて。
わずかに、身を乗り出してた。
「甘かった…」
「そうか」
「これじゃないといいなーって思ってたものです」
「だろうな」
「でも、一番いいなーって、思ってたものです。僕も」
「じゃあ、仕方ないな」
「仕方ないね」
肩を落として。
大きく息を吐き出して。
それから、雑誌をきちんと閉じて、手にする。
ありがとう、なんて言いながら、くるりと前を向いて。
また息を吐く。
お金は…まぁ、バイト代出たばっかだし。
溜めてた分も、いくらかあるし。
大丈夫かな。
考えて。
雑誌を開く。
今の小学生って、オシャレだよね?
タマちゃんの弟くんは、そうでもないらしいんだけど。
尽はかなり、煩い。
彼女も何か、気にしてるらしいし。
…って、尽が言ってるだけなんだけど。
首を傾げて。
でもま、悪いことじゃないか。
考えて。
わたしは頬杖を突いた。
服かー。
自分の、この頃買ってないなー。
思い出して。
パラパラと捲っていく。
目を引くようなものも、特になくて。
もう一度、小さく息を吐き出したら。
くいっと、髪を引っ張られた。
「…何ー?」
「買い物、行くのか?」
「うん。明日だもん。学校終わったら、行きますよ?
家に帰る前に、ちゃっちゃと」
「そうか…」
上半身だけ回して、彼を見れば。
思案顔で。
「どしたの?」
「一緒に…って、思ったんだけどな」
「……」
何でまた?
思いつつ、彼を見続ける。
でも、一緒に行ってもらえるなら、ありがたい。
ひとりって、結構嫌だし。
「お昼、どっかで食べる?」
「金は?」
「あ……」
「?」
「家だ」
「………」
無言で、彼は頭を叩く。
持ってこようって、思ったんだよ。
思ってたんだよ。
朝。
でも、家を出る時には、すっかり忘れてたんだよ!
「一回帰ります」
「ああ」
「でもきっと、ゆっくりしちゃうと、出る気なくすと思います」
「だろうな」
「なので、忘れ物を取りに行くというだけにしたいので」
「ああ」
「どっかでご飯、食べる」
拳を握って、そう言って。
彼の頷きを、引き出して。
わたしは、椅子に横向きに座る。
「じゃあ、行くか」
「うん、行こう」
「理由もできたしな、それに」
「理由?」
首を傾げて、問えば。
彼はふって笑って。
「間違えてた時の、理由」
そう、答えをくれた。
確かに。
なんて、彼の顔を見続けてたら。
氷室先生が、教室に入ってきて。
有沢さんの、起立! の声に。
わたしは慌てて、立ち上がる。
それに、後ろから聞こえたのは。
彼のくすくすという、小さな笑い声だった。
END
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