彼女のこと
新しい 彼女のこと

知っていくたびに 嬉しくなる

それがなぜかなんて
わからないまま

俺は変わらず
彼女のそばにいた




grassy





彼女が落とした一言に反応したのは、彼女の弟。
俺も彼女の顔を見る。
彼女は未だに、その一角を見つめたまま。
「あ? 何か言ったか? 姉ちゃん」
「だから、りんご。安いねーって」
「………」
「でも、結構痛んでるなーって」
「…それで?」
「あれだけ痛んでたら、アップルパイとかにしちゃった方がいいよねーって」
「………」
「でもなー。アップルパイって、結構面倒臭いからなー」
一人でぶつぶつと呟いて。
彼女はそこから視線を外す。
荷物持ちを言い渡されていた俺は。
歩きはじめた彼女の代わりに、立ち止まって。
その赤い果物を見てた。
「オレ、この頃食べてない」
「作ってないもん」
「作れよ、玲」
「ヤダ。めんどい」
断って、彼女はなおも歩いていく。
それに、小さく舌打ちが聞こえて。
尽も歩いていくけれど。
俺の瞳には、赤い果物。
それを四つ、かごの中に放り込んで。
俺もあとを追いかけた。

「…何でりんごが入ってんの?」
まだ、スーパーの中で。
これで終わりかなーと呟いた彼女が、俺が持っていたかごの中を覗き込む。
それで、俺が中に入れたそれに、彼女はようやく、気づいてくれた。
「尽?」
「俺」
「…何で?」
「食べたい」
「りんごを?」
「アップルパイ」
言えば、彼女はわずかに眉根を寄せて。
「それは暗に…作れって、言ってる?」
「言ってる」
零された問いに、俺はそう、短く返した。
大きく肩を落とした彼女を、俺は見る。
「面倒臭いって……言ってたな」
「言いました」
「手順は?」
「りんごを皮剥いて、切って、剥いた皮ごと、砂糖で煮て。透明になったら、皮出して、シナモンまぶして。パイで包んで、オーブンで焼く」
「………」
覚えてるのか…なんて、少しだけ、感心して。
それから、どの辺りが面倒臭いんだろう? なんて思う。
尽は、彼女に了解を得て、未だに買う菓子を悩んでいて。
「煮るのがね? ものすっごく、面倒臭いの」
考えを読まれたかのごとく、彼女の説明がはじまる。
そんな彼女を見ていると、今にも殺気立ちそうなほどで。
「砂糖入れるから、焦げやすいし。焦げたら苦くなるし。プリンのカラメル、あるでしょう? あれ、砂糖を水と火で溶かすんだけど。それとほぼ、同じ状態になるの。りんごから水分出るし。砂糖は焦げやすくなるし。ずーっと、鍋に張り付いてなきゃいけないわけ。だから面倒臭いの。わかった!?」
にらまれるようにして言われて、頷いた。
でも。
「シナモン…」
「何?」
「家にない」
「はい?」
「向こう…か?」
「ちょっと待てー!!」
砂糖はある。
なんて考えながら、踵を返して、一歩を踏み出したら。
彼女が俺の腕を掴んだ。
――彼女が面倒臭いと言うのは。
ただ単に、動けないから。
だったらその間、俺が引き受ければいいだけじゃないか?
そう考えていたのだけれど。
「そんなに?」
「…ああ」
「売ってるの買えばいいじゃん」
「嫌だ」
「……向こうの方が、上手でおいしいです」
「おまえが作ったのがいい」
「何で!?」
「………」
改めて聞かれると、返答に困る。
彼女が作ったものを食べたいなんて思ったのも、理由を深く考えずにいて。
深く考えずに、口に出した。
だから。
理由なんて。
よく、わからない。
「作り方教えるから。君が作ったって、いいんじゃないの?」
「………」
「葉月くん?」
触れてくれている手から、力が抜ける。
それだけで、ほんの少し、寂しいと思う。
なぜかなんて――わからないまま。
「…田端」
「? 何ー?」
「作れ」
「……マジで?」
理由なんて言わずに、それだけを届けて。
彼女を引きずりながら、売り場へと向かう。
菓子に張り付いたままだろう尽を、残したまま。
彼女が甘いものを作るのが得意なんてことは、知っていたけれど。
だからこそ、アップルパイを作れることだって、わかり切っていたのに。
それを知ったことが嬉しくて。
でも、それが目の前に晒されないと、信じがたくて。
けれど、俺のためがいいだなんて。
そんなことまで、考えてしまっている。
そうしている理由なんて、考えなくて。
深く、考えなくて。
そうして出た答えには、首を振って、否定して。
気のせいだなんて、決め付けて。
「……製菓コーナーじゃなくて、スパイス系のとこです」
諦めたのか、そんな言葉が聞こえて。
俺は爪先を、今言われた場所へと向ける。
「これから作るの?」
「平気だろ?」
「君んチで?」
「俺の家で」
「尽は?」
「…帰るだろ?」
「……まぁね」
傍らに立つ彼女を見る。
それだけで、嬉しいと思う、自分がいる。
…理由なんて、わからないまま。
「あーあ。面倒臭いことになったぞー」
言いながら、彼女は腕を上げて。
それでも、俺の腕は、掴んだまま。
「手伝うから。俺」
「当たり前」
即答に、くすくすと笑う。
今日は何も、予定のなかった休日で。
家にいるのも嫌で、外に出た。
そこで、彼女たち姉弟に出会って。
買い物の荷物持ちにと、連れられて。
「あーでも、今日のお礼なのかなー?」
「…だな」
「でも、付いてこいって言ったの、尽だし」
「おまえはその、姉」
「弟と姉は別物」
「でも姉弟」
「………」
「持っていってやるから。家まで」
「…よろしくお願いします」
頭を下げた彼女に笑って。
それから、シナモンを手にして、踵を返す。
かごに入れれば、彼女は大きくため息を吐いて。
「パイ生地も買わないとねー。冷凍物だけど」
そう、言葉を零した。

END

 

微妙な時期って、書くのが楽しい…v
とにかく、何か書きたいと思ったら、こんなものが。
何が書きたかったのかは、不明です(……)。

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