聞けば早いのはわかってる

けど
それが間違いだったら?

考えると止まらなくて
わからなくなって

どうしたら いいのかなぁ?

そんなことばっかり
口にしそうになってる



four Leaf 〜 東雲 優菜 〜




もうすぐ、彼が迎えに来てくれる。
時計をちらりと見て、考えて。
わたしは大きく、息を吐き出した。
嫌じゃないの。
嬉しいの。
でも……不安なの。
口にできないから、思うだけに留めて。
わたしは視線を伏せる。
今日は間違わずに、いられるかな?
考えて、足の上に置いていた、組んだ手を。
ほんの少しだけ、動かした。
いつから…だったかな? こんなこと、考えるようになったの。
不意に疑問に思って。
わたしは左手を上げた。
薬指に収まっているのは、彼がくれた、リング。
クローバーを象った、彼が造ってくれた、リング。
これを見る度に、嬉しかったのに。
好きになる度に、不安も増えてることに、気づいた。
それは当然のことかもしれなくて。
とは言っても、それは変わらない。
不安は拭えなくて。
ずっと、心の中に、蓄積していく。
怖いの。
今が壊れてしまうことが。
彼がそばから、いなくなってしまうことが。
だからそうならないために。
彼がそばに居続けてくれるために。
わたしは何を、どうしたらいいんだろう?
考えて。
わからなくて。
わたしは一つ、息を吐く。
あなたは何をされたら、嫌ですか?
頭の中で。
いつだって、彼に問いかけてるけど。
彼はいつも、眉根を寄せて。
わたしを見ているだけ。
だからきっと、聞いちゃいけないんだって。
そう思う。
言っちゃいけないこと。
言ったら。
言ってしまったら。
彼はわたしから、離れていくかもしれない。
考えて、息を吐く。
直後。
チャイムは家の中に、鳴り響いた。


たくさんの人の中を、手を引かれて、歩く。
色とりどりの、浴衣が、視界の中にはあったけど。
わたしは瞳に、繋がっている手を映した。
彼の手は大きくて。
でも、優しくて。
嬉しくて…笑みを浮かべてた。
きゅっと握れば。
彼は振り向いて。
「どうした?」
そう、聞いてくれる。
「ううん。何でもないの」
「…本当に?」
「本当」
「歩くの、早いか?」
「ううん。大丈夫」
首を振って。
それでさえも、笑ってでしか、できなくて。
彼がわたしを見てくれる。
わたしに、言葉を届けてくれる。
そんな、あたりまえになりがちなことが、今はとても、嬉しくて。
だけど、次の瞬間に。
なくなってしまった時のことを考えて、怖くなる。
彼が前を向いた瞬間。
わたしから、視線を外した瞬間。
わたしは笑みをかき消して。
視線を足元へと、貼りつけた。
笑っていれば、彼の隣りにいられるのかもしれない。
でも、不安を抱えてしまったから。
思い出してしまったから。
今のままでは、笑ったとしても。
強がりでしかないから。
どこかで、笑えてないかも、しれなくて。
考えていれば。
足取りはどんどん、重くなっちゃって。
履いていた下駄も、乾いた音を、立てなくなって。
「どうした?」
彼がそう聞いてくるまでに、時間はかからなかった。
顔を上げれば、彼は歩みを止めて。
わたしの顔を、覗き込んでいて。
「優菜?」
「…何でも、ないの」
「………」
「早く行こう? 花火、はじまっちゃうよ?」
笑って、言えたかは。
はっきり言って、微妙で。
彼は無言で、わたしの顔を見続けて。
それから。
また彼は、歩き出してくれる。
けど。
それは、人の波からはずれて。
屋台の灯かりからも。
波の音からも…遠ざかって。
「珪くん?」
少しだけ、早足。
それで、足がもつれそうになっても、わたしはがんばって、ついていって。
その事実に気づいたのは、人が本当に、いなくなってから。
お祭りには似つかわしくない、街灯の下。
そこに、出てから。
――怒ってるのかも、しれない。
間違えたのかも、しれない。
怖くて、どうしようもなくて。
優しいはずの、彼の手は。
わたしに、あたたかさ以上に、痛さを伝えてくる。
それが意味しているのは、たった一つで。
彼が歩みを止めた瞬間。
わたしも、足を止められたけど。
彼の顔を見ることは、できなくて。
そして。
言わないままが、間違いかもしれないことを。
言わないままが、嫌われることになるのかもしれないことを。
気づけた。
二人でいる意味は、何なんだろう?
考えれば。
彼はぎゅって、抱き締めてくれた。
「け、珪くん?」
「何、考えてるんだ?」
「………」
誰もいないから。
わかっているから。
わたしは彼の胸に、もたれてみる。
街灯の下。
そこは、スポットライトの下にいるみたいで。
ここは、舞台なのかもしれない。
出演者は、わたしと彼だけ。
台本はどこにもなくて。
あるとしたらそれは。
それぞれの、胸の中。
観ている人は、誰もいない。
彼の腕の中は、あたたかくて。
失うのが、とても怖くて。
それを伝えたくて、きゅっと。
彼の浴衣を、つかむ。
二人でいる、理由は。
意味は。
「……不安、なの」
ポツリと零せば。
彼はわたしの肩に手を置いて。
引き剥がすようにして、顔を覗き込んでくる。
でもわたしは、顔を見られなくて。
「不安…って?」
「………」
「優菜」
「いなく…なっちゃうんじゃないかって」
「………」
「だから、間違えちゃいけないって」
泣きそうになりながら。
わたしは綴る。
と。
彼は大きく息を吐いて。
改めて、わたしを抱き締めてくれる。
さっきよりも、力を込めて。
「珪くん?」
顔を上げれば、彼はどこか、安堵したようで。
わたしはまた、不安。
べつの意味での、不安。
何を考えてるの?
わからなくて。
不安。
「間違いじゃない」
答えが返ったのは、わたしが彼の背中に、手を回してから。
「え?」
「どれも、間違いじゃない」
「………」
「おまえがおまえであれば、間違いじゃない」
「…珪くん……」
「おまえが考えてること。すること。言うこと。全部おまえなんだから。教えてくれ。ちゃんと。俺に」
「…うん」
頷いて。
彼の胸に、顔を埋める。
大丈夫。
大丈夫。
まだ不安は残っているけれど。
それでも。
今はとても、安心してる。
彼が頭を撫でてくれて。
それで、少し離れれば。
頬に、彼の唇が落ちた。

END

 

優菜ちゃんsideです。
何だか何度も書いてるようなテーマなのですが。
それでも、書きたかったので…。
お祭りになったのは、何となく、です。

3周年記念SSです。
フリー配布しておりましたが、今は終了しております。

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