「何もやっていなかった」

その言葉が示すもの

わかっていたから

その言葉を
届け続けていたのに




flaw





「だーから、言っただろうが!」
化粧はしているものの、顔色が悪いのを見て取って、オレはそう、声を上げた。
隠してるつもりだろうが、オレにはわかる。
それを届ければ、彼女は「煩い」と、小さく紡いだ。
「龍太郎、煩い」
「煩くて結構!」
「………」
「今日、授業は?」
イラつきながら、問えば。
午後にある、と、小さな返答。
だから彼女は、来たんだろうけれど。
なかったなら、今日は家でおとなしくしていたかもしれない。
タバコを灰皿に押し付けて。
また新しいものを、取り出せば。
視界の端で、彼女が、小さく頬を膨らませていた。
「よく食べて、よく寝ろ。オレは何回も言っただろうが」
「……はいはい」
「柊!」
声を荒げれば、彼女は寝返りを打って。
布団を頭まで被って。
「聞こえませーん」
とか何とか。
くぐもった声で、オレへと言ってくる。
彼女が珍しく。
「誰もいないなら、ベッド貸して」
なんて言い出した時には、驚いた。
けれど、すぐに理由がわかったから、オレはこうして、怒っているわけで。
――にしても。
「………」
白いベッドの上で、カーテンも閉めずにいる彼女は。
布団に包まった姿を、オレに曝しているばかりで。
背中を向けてはいるものの。
そんな姿に、頭の中を埋め尽くしているのは。
「……柊」
声のトーンを落とせば。
芋虫のような姿は、ぴくりと動いて。
ほんの少し、頭を上げたようで。
その瞬間を見逃さずに、オレは彼女が包まっているものを剥ぎ取る。
見えたのは、驚いて、見開かれた瞳で。
無理矢理のように、仰向けにさせれば。
「りゅ、たろ…?」
と、困惑の声。
「ん?」
「ここは、保健室…だよね?」
「だなぁ?」
「…私たちは、恋人同士でも何でもないよ…ね?」
「セックスフレンドって言葉があるだろうが」
ヘッドフォンを外して、首にかけつつ、言えば。
彼女は黙り込んで。
思えば、いつもそう。
彼女はオレの、冗談――ほんの少し、本気だけれど――を、黙って受け止める。
受け流すとか、焦るとか。
そういうことをせずに、黙って。
流されてもいいと。
そう思っているのかもしれない。
「…柊?」
「据え膳食わぬは何とやらってやつ?」
「………」
「別にいいけど……何も変わらないと思う」
当たり前だ。
オレだって、そう思ってる。
彼女の支えになるのは、オレじゃない。
今の彼女には。
支えが必要でも。
彼女がそれを、欲していない今は。
オレには何もできないも、同じこと。
「…龍太郎?」
手を取って。
身体を起こすのと同時に、彼女の身体を引っ張りあげて。
正面から、彼女の瞳を捉えれば。
それはすっと、細められて。
……自分でも、何をやっているのかが、わからなくなる。
首に、細い腕が回って。
抱き締められて。
「…淋しい?」
そんな声が、耳に直接、注がれる。
考えたことも――ない。
オレがこんなことをするのは、その方がらしいから。
そのぐらいにしか、思ったことはないのに。
「温もりがほしいなら、あげるよ。私なんかでいいんなら、だけど」
「………」
「私だって、支えてもらったし」
「…柊」
「何?」
ぽんぽんと、後頭部を叩かれて。
オレは何も、言えなくて。
彼女の上に立つには。
少し…乱暴な方法が必要かもしれなくて。
だからと言って。
まだ、征服欲は、彼女には向けられていないのが、本当のところ。
こうやって包まれている方が、楽なのはある。
けれど……。
「…オレ様らしくねぇな」
「何が?」
零せば、すかさず、そんな問い。
それに答えられずに、くすくすと笑い続けて。
するりと解かれた腕を追うこともせずに。
オレは彼女の唇に、自分自身のそれを重ねる。
確かに、温もりがほしいのかもしれない。
でもそれは、彼女ではない。
きっとで、多分でしか、ないけれど。
「……キスフレ?」
「ああ。いいかもなぁ、それ」
「うーん…よくわかんないんですけど」
口元に、固めた手を当てた彼女に、くすくすと笑って。
その手を取って、まだ唇を重ねる。
拒まれることがないのなら。
それを使うだけ。
彼女だって、そう思っている。
きっと。
だからここへ、来るんだろうし。
「…キス魔」
「だな」
「………」
「ちゃんと飯食って、寝ろよ?」
「……はーい」
やる気のない返事に、こつんと彼女の頭を叩いて。
彼女の膨れた頬に、また笑って。
昼、一緒するか?
そう言えば。
「…いいです」
「おまえ、教諭室で食ってるのか?」
「……来ないでください」
「?」
「怒られそうだし…」
「おまえなぁ……」
視線を外した彼女に、頭をかいて。
外していた、ヘッドフォンを付ける。
いつもと同じ音楽が流れ出して。
彼女の腰を抱いたまま、そこへと意識を傾ければ。
「…手つきがヤラシイ……」
そんな呟きが聞こえて。
俺は声を上げてた。

END

 

彼はキス魔であってほしい。
そんな話。
……この日の話は、続きます…。

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