彼女の言葉には力があるんじゃないか、なんて。
何度思ったかわからないことを、今日もまた、思っていた。
EQUAL
目の前をひらひらと落ちていくものに、特に興味もなくて。
彼は一つ、欠伸を零す。
と、横からはくすくすという笑い声が響いた。
それに、軽く眉根を寄せると。
「ごめんね?」
なんて声が届けられて。
それでもまだ、笑みは零れたままで。
彼もふっと笑う。
「つまらない?」
「べつに…そういうんじゃない」
答えたけれど、それでもやっぱり、と思い返す。
することがないと言ってもいいこの状況で。
いくら彼女が隣りにいるとは言っても。
会話が途切れてしまっては、どうすることもできなくて。
「………」
彼は無言で、身体を横たえた。
それにまた、彼女の笑みが耳をくすぐったけれど。
眠る気はなかったから、そのまま、彼女に視線を移す。
と。
彼女は目の前に舞ってきた葉を手のひらで受け止めて。
それをじっと、見つめていた。
「どうした?」
声をかければ、彼女は一度、笑みを零した。
ほんの少し、苦いものを含んで。
「んーとね……。これ、何かなーって」
「……? 落ち葉…だろ?」
「そうなんだけど」
はっきりと苦笑へと変わった表情に、彼はわずかに上半身を上げる。
「名前は?」
問われて、考えるまでもなく。
「イチョウ」
そう、答えを口にした。
頷いたけれど、彼女はまだ、どこか苦いものを宿したままで。
赤い葉を手にして、見せてくる。
「これは?」
「もみじ」
「だよね」
「?」
何が言いたいのかがわからなくて、彼は眉間に皺を作った。
きちんと座り直して、彼女の横顔を覗き込む。
「優菜?」
「うん。わたしには、『優菜』って名前、付いてるのにね」
「? 何言って……」
「この子たちに名前、ないのかなーって」
「……?」
「同じ名前…でしょう? この子たち」
紅葉の葉の、その茎の部分を指で持って、くるくると回して。
彼女はまだ、じっとそれを見続けていた。
同じ名前、というその意味がわからなくて。
彼はもう一度、彼女の名前を綴る。
「だからね? この子たち自身に、名前はないのかな? って」
「………」
「わたしには『優菜』って名前。珪くんには、『珪』って名前」
何となくわかった気がして、軽く頷いてみる。
けれど彼女の言葉は、そのまま続いていた。
「でも、この子たちは同じなの。この子も、この子も、『もみじ』。こっちの子たちは、『イチョウ』でしょう?」
「ああ」
「何か、勝手だよね…」
ポツリと呟いて、彼女は手を下ろす。
考えていることはわかるつもりで、彼は空を仰ぎ見た。
葉の隙間から零れる光に、目を細める。
彼女もつられたように、視線を上向けて。
「でも、勝手だけど。それでわたしたち、こうやって会話、できてるんだよね?」
「だな」
ごめんね。
小さく呟かれた言葉に微笑って。
それから、彼女の頭を引き寄せてみたりした。
肩に寄りかからせて。
見上げてきた瞳に、笑みを映して。
「…悪い」
呟けば、彼女はふるふると首を振ってくれて。
地に付けた手に、手を重ねてくれた。
その暖かさに、ほっとして。
肩に乗った、彼女の重みでさえも、嬉しくて。
「優菜」
「なぁに?」
「……べつに」
彼女にだけ付けられた名前を紡げること。
それがこんなにも嬉しく思えるなら、いつだって紡ぐのに。
そんなことを思いながら、手のひらを返す。
「珪くん」
「ん? どうした?」
「何でもないの」
ふふっと笑って、彼女は手に力を込めてくる。
「ただね? 珪くんのマネ、したかっただけ」
「………」
「それと…何かあったかいなって」
向かい合って、くすくすと笑いを零して。
上から降り注ぐものを眺め続けた。
無言の暖かさとか。
すぐ近くで聞こえる吐息の嬉しさとか。
風がわずかに揺らしていく度に起こる、髪の音の優しさとか。
そういったものを、身体全体で感じながら。
END
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