時々、違うクラスだったら…って、考えちゃう。
本当に、時々。
本当に、本当に、少しだけ。



どんなことでも




友達からもらったものを口に含んで。
彼女はふんわりと、笑みを零す。
それに、緊張していたような、目の前の表情は。
わずかにその、固さをなくして。
「すっごくおいしいよ、須藤さん」
彼女がその言葉を紡いだと同時に、ほっと息を吐いていた。
けれど、それを隠そうとでもするかのように、腰に手を添えて。
胸を反らせて。
須藤は言葉を綴る。
「当然よ。ミズキが作ったんですもの」
「うん。さすがだね」
言って、彼女はまた、もう一口、それを口の中へと運んだ。
それは、今日の家庭科の調理実習で作ったというチーズケーキで。
須藤の手に、よるもので。
「本当においしい。わたしも明日、やるんだけど…うまくできるかなぁ?」
「大丈夫よ。簡単だったもの。ま、味はミズキのには及ばないでしょうけど」
言われた言葉に、彼女は笑って。
苦いものなど、一切含まない笑みを浮かべて。
それから、彼女は一度、ケーキへと視線を向けてから。
「三原くんもきっと、おいしいって言ってくれると思うよ?」
そう、言葉を発する。
それは、お世辞でも何でもなくて。
本当に、心からそう思ったことだったのだけれど。
須藤は少しだけ、瞳に不安の色を覗かせていた。
「本当に、そう思って?」
「うん。だって、こんなにおいしいんだもん」
「………」
「三原くんに、あげるんでしょう?」
「そのつもりよ?
だから、あなたに試しに食べてもらったの」
「うん」
もともと、食べてもらいたい人がいると、聞いていたから。
遠慮したかったのだけれど。
もし、うまくできていなかったら、嫌だから。
と、そう言われてしまったら、友達のために、動かないわけにはいかなくて。
「大丈夫だと思うよ?
わたしだけで不安なら、ほかの誰かに、食べてもらう?」
進言すれば、須藤はにわかに、首を横へと振って。
「あなたのこと、信じてないわけじゃないもの。必要ないわ」
「じゃあ、自信がないの?」
Non,non そうではないわ! そんなこと、あるわけないでしょう?」
「それなら、三原くんのところに行くのなんて、簡単でしょう?
…あ、三原くん、甘いもの、嫌いとか?」
「いいえ。色サマは、甘いものも好きよ?
心を温めてくれるものですもの」
「そうだね。甘いもの食べると、嬉しくなるもんね?」
「ええ」
「じゃ、大丈夫だよね?」
「…そう、ね」
「やっぱり、自信ない?」
「そんなことないって、何度も言ってるでしょう!?」
ムキになる須藤に、彼女はくすくすと笑みを零して。
途中まで一緒に行ってあげるから。
なんて、言葉にすれば。
「必要ないわ!
そんなこと」
そう、須藤は声を荒げて。
けれど。
「でも、ミズキと一緒に、色サマのところに行きたいのなら、同伴を許可してあげますわ。……べつに、ミズキが一人で行くのが怖いってことじゃ、ありませんからね?」
「うん。じゃあ、一緒に行くね?」
急いで、すべてを食べて。
彼女はいすから、腰を上げた。

こういう時、考えてしまうことがある。
そんなことを、思いながら。
普段は、嬉しく思うことなのに。
こういう時は、それが少しだけ、嫌になってしまう。
彼と違うクラスだったら…。
考えて。
わたしもきっと、調理実習で作ったお菓子とか、葉月くんに渡しに行くんだけどな……。
考えて。
短く、息を吐いた。
考えても、詮無いこと。
そんなことは、わかっているのだけれど。
今年は、それをできそうには、ない。
同じクラスだから。
彼も作っただろうものを、わざわざ、あげるわけにはいかない。
それに、同じクラスだから。
時々やってくる、彼に声をかけに来た女子の姿も、目にしてしまう。
時々、作ったんだけど、なんて、渡しに来る生徒も、いたりするから。
会話も、聞きたくはないし。
その光景も、見ていたくはないから。
教室から、逃げ出してしまうことも、しばしばあって。
違うクラスだったら。
そう、考えてしまう。
違うクラスなら、そんなこともないのに。
考えて。
「東雲?」
「は、はい!」
思考の海へと、沈んでいたから、目の前に来た人物になど、気づけていなくて。
彼女は大きく驚いて、そう答えてしまって。
次の瞬間。
その人物を認識すれば。
目の前。
極々そばで、その人物は驚いていて。
「あ、ご、ごめんね?」
「…いや。急に話しかけた、俺も悪かったから……」
「う、ううん。それで、なぁに?
葉月くん」
気を取り直して、そう問えば。
彼は、少しだけ、言いにくそうに、表情を歪めた。
それに、首を傾げて。
彼女は彼の顔を、覗き込む。
「どうしたの?」
「……明日…」
「明日?」
明日は、調理実習があるね?
そう、口にしそうになって。
彼女は慌てて、言葉を飲み込んだ。
それには気づかずに、彼は小さく、息を吐いて。
「明日…俺、学校、来ないから」
「………」
驚いてしまったのは、仕方のないことで。
「……一日がかりで、撮影…なんだ。明日」
けれど、続いた言葉に、彼女はそれじゃ、と諦める以外は、なくなってしまって。
「そっか。がんばってね?」
そう、届けるしか、できなくなってしまって。
明日一日、彼の姿を見ることはできない。
同じ教室で、過ごすことはできない。
けれど。
彼が直接、言ってくれたというそのことが、嬉しかった。
同じクラスでも、いいことはある。
知っているそのことを思い出して、彼女は小さく、笑みを浮かべられた。
同じクラスなら。
授業中の彼を、探ることができる。
彼よりも後ろの席――限定だけれど。
同じクラスなら。
なんてことのない話も、許される。
次、移動だよ。
そうやって、寝ている彼を、起こすことも、許される。
同じクラスだから。
学校にいる間は、同じ教室で、同じ時を過ごすことができる。
知っているから。
知っているけれど。
無い物ねだりみたいに、もしものことを考えてしまう。
その理由は、彼女は自分でよく、わかっているし。
知っているから…。
「今、帰るところ?」
「……ああ」
「そうなんだ」
一緒に…と、考えたけれど。
彼女は、彼とは違って、かばんを持ってきてはいないから。
その言葉は、言えなくて。
彼女はわずかに、視線を伏せた。
ここにいるのは、友達のためで。
今、彼と会うまでは、どうだったかな?
なんて、考えてさえ、いたのに。
彼と会って、話をした瞬間。
一緒にいたい気持ちの方が、大きくなってしまっていて。
彼女は小さく、息を吐いて、肩を落とす。
それから、彼へと視線を上げた。
「じゃあ、明日、がんばってね?
ノート、取っておくから」
「…ああ。頼む」
「うん」
言って、小さく手を振って。
彼女は彼を、送り出したのだけれど。
彼はそこから、動かずにいて。
「……?」
それに、首を傾げれば。
彼がゆっくりと、口を開いた。
「一緒に…帰るか?」
「え?」
「特に、用事、ないんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ…、ゆっくり、歩いてるから」
言い放って、彼は背を向けて。
本当に、ゆっくりと歩き出す。
それに、彼女はどうしようかと考えて。
そばの扉を開けようとも思ったのだけれど。
できれば邪魔は、したくはなかったから。
彼女は携帯を取り出して。
そうしながら、急いで教室への道を辿る。
何度も間違えながら、メールを打って。
そのために、走ることは叶わなかったけれど。
教室に着いて、かばんを手にして。
廊下へと出て、早足で進みながら、メールを打っていく。
先に帰るね。ごめんね?
という、短い文章なのに。
何度も間違えてしまって。
打ち終えて、須藤の携帯へと送ったのは、学校を出た直後。
送信をし終えたという、その画面を見て、携帯を仕舞って。
視線を上げれば。
そこには、彼の姿があった。
足を止めて、彼はぼんやりと空を眺めていて。
「葉月くん!」
声をかければ、彼の瞳は、彼女に向けられて。
表情は、ふわりと笑みへと変わる。
「ごめんね?」
「べつに…約束してたわけじゃない、だろ?」
「そうなんだけど……」
「それより、帰ろう」
歩き出した彼の横に付いて。
彼女もまた、歩き出して。
「明日、調理実習、あるでしょ?」
「…だったな。そういえば」
「でも、葉月くん、食べられないんだね?」
「……ああ」
「…わたしのでよければ、明日、バイト先に持っていこうか?」
「………」
「ご、ごめんね?
うまくできないかもしれないし。迷惑だよね?」
黙り込んだ彼に、彼女は慌てて、謝罪の言葉を口にして。
そうしたけれど、後悔でいっぱいになってしまって。
彼女は肩を落として。
視線さえも落として。
べつの、違う話題を、必死に探していたのだけれど。
「いや…、お願い、してもいいか?」
「!」
「頼んでもいいなら」
「う、うん!
もちろん!」
じゃあ、明日、持っていくね?
かばんの持ち手を、ぎゅっと握って、そう言えば。
彼は一瞬、驚いたように、目を丸くしてから。
ああ、と、短く、答えを返した。

END

 

学校に関連した話って、書いてないなーと。
で、思いついたのが調理実習。
でも、二人は三年間、同じクラスだしなーと、考えて。
樹のとこでは、そういう設定なので、どうしようと。
そんな感じで、考えて。

おじょうを出したのは。
主人公ちゃんが気づいているのが、この方だけだったから、なのです。

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