やっぱりどうしても、それがその人だとは思えなくて。
なぜかとても、淋しくなった。
Different
「ハイ、どうぞ」
ぼんやりと空へと向けていた視線を、正面へと向け直す。
そこには見知った顔があって、彼女は小さく、首を傾げた。
「どうぞって……」
「アタシはもう読み終わったから。貸してあげる」
「………」
「ほしければ、あげるけど?」
「うん……」
無言で机の上へと瞳を向ける。
と、彼が表紙を飾った雑誌が置いてあって、彼女は顔を上げた。
「なっちん?」
「『珪くん、いなくて淋しいなー』ってとこでしょ? アンタ、わかりやすすぎなのよ」
言葉に反応して、ぼんっと赤くなって。
彼女は両の頬を手で押さえながら、きょろきょろと視線をさまよわせたあと。
「な、なっちん!」
「その通りでしょ?」
「……それは…そうだけど……」
「仕方ないんじゃん? アイツはモデルなんだし。今までにだってあったしさ、こういうこと」
「…そうなんだけど……」
「明日には来るって! だいたい、二日間って言ってたんでしょ?」
こくんと首を縦に動かして。
それから、ちらりと左隣へと視線を動かした。
昨日から、そこには誰も座ってはいなくて。
ぽっかりと…そこに、穴が空いてしまっているようで。
撮影って…言ってたもんなぁ。
思い出して、小さく息を吐く。
邪魔をしてしまったら、悪いと思って、電話もしていない。
思いつつ、目を細める。
と。
「ユナ!」
と、目の前で呼ばれた。
「な、何?」
「……やっぱり聞いてなかった」
「ごめん…」
「まぁいいけど」
ため息を吐かれて、彼女は小さく縮こまる。
それでも、ちらっと瞳を向けると、目の前の友達は、ふっと笑みを浮かべてくれて。
「淋しいっていう気持ちは、わからなくはないからさ。だから今は、これでガマンしなって!」
言われると同時に、手で差し出されて。
彼女はもう一度、それに瞳を向けた。
そこに写し出されているのは、確かに彼なのだけれど。
彼である、はずなのだけれど。
「………」
無言のまま、表紙に手をかけて、それを捲る。
グラビアを飾っているのも、彼で。
『葉月 珪』という名前の、彼である、はずなのに。
「珪くん…なんだよね?」
「? ユナ?」
ポツリと零した呟きに、顔を覗き込まれて。
彼女は一度驚いたあと、微笑んだ。
「何か、違う人に見えるの。わたしが知ってる、珪くんじゃない、べつの人、みたいに」
「……そう?」
「うん…。変かな?」
「ヘン! ……って、言いたいとこだけど」
「だけど?」
しゅんと一度、肩を落としたのだけれど、言葉を付け加えてくれた友達に、彼女は首を傾げて見せる。
「加工されてるわけじゃん? この葉月はさ。アタシたちが知ってる、同級生の葉月とか、ユナが知ってる、普段の葉月と違って……モデルっていう、加工がさ」
「加工?」
「葉月だって、そうじゃないの? やっぱり少しは、モデルっていう自覚持って、やってるんだろうし」
「うん……」
「けどさ、いつもそういうわけじゃないじゃない? まぁ、いつもそうだったら、はっきり言って、イヤなヤツだけど」
「なっちん……」
「最初はそうなのかと思ってたのよ、アタシ。けどさ、アンタと一緒にいるアイツは、そうじゃないみたいだったしさ」
ってことは、やっぱ加工されてるんだよ。
人差し指を立てて、得意げにそう言った友人に、小さく笑って。
彼女は視線を落とす。
「気を抜いてる瞬間とか、どっかにあるんじゃない?」
「わたしもね、ちょっとだけ、それ…考えてたの」
「やっぱり?」
くすくすと二人で笑って。
ページを覗き込む。
明日、彼に会ったら。
おつかれさまの一言を届けよう。
そんなことを考えながら、もう一度。
彼女は視線を隣りへと移して。
小さく微笑っていた。
END
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