教えたわけではなくて
知られてしまったから……か
何なのか

彼のところに
入り浸ってしまっている自分に

小さく苦笑さえ
漏らしてた




dessert





日曜日。
なぜか毎週のように、私は台所に、立っていたりして。
作っているのは、お弁当で。
私の分は、ものすごく少ないくせに。
あまり食べないくせに。
大きな入れ物に、おにぎりやら、から揚げやら、玉子焼きやらを詰めて。
そして、十一時三十分。
時計がその時間を指し示していることを確認してから、家を出る。
鍵をかけて、つま先を右へと向ける。
行き先は、隣り。
すぐにそこには辿り着いて。
ピンポーンとチャイムを鳴らすと同時に。
「…っス」
なんて、短い挨拶と同時に、その扉は開かれる。
促されるまま、中へと入って。
机の上に、持ってきたものを置く。
と、ケーキが、私の目の前に置かれた。
「今日はシフォンケーキ?」
「……そうっス」
「ふーん。飲み物は?」
「見てわからないっスか?」
「…緑茶」
「わかってるじゃないスか」
何で緑茶なのか、知りたかったのに……。
思いつつ、お弁当箱の蓋を開ける。
毎週、日曜日。
別に、約束してるわけじゃないのに、私は彼の家に、こうしてやってくる。
理由は、簡単で。
私が、息を抜きたいから。
それに付き合ってもらう代わりのように、お弁当持参で。
最初は、何もなかったのに。
次の週から、こうして、デザートが出てくるようになった。
前の週と、同じものだったり。
違ったり。
買ってきたものだったり。
作ったものだったり。
さまざまだけど、楽しませてもらってる。
そして、わかったことは。
私は、彼が作ったものじゃないと、食べ切ることは不可能らしいということ。
だからか。
買ってきたものの場合は、あまり大きくないものを、彼は出してくる。
というより。
毎週、付き合わせてしまっているようで、申し訳ない気もしてるんだけど。
「オレの方が、付き合ってもらってるみたいなもんだから…いいっスよ」
って、必ず言ってくれるから。
甘えてしまっているのかもしれない。
「これ、何スか?」
「何でしょう?」
「…オレが聞いてるんスけど」
「食べてみなよ。わかっても…まぁ、何もないけど」
何スか、それ。
彼が笑って。
笑いながら、箸でつまんで、それを口の中へと運ぶ。
一口食べて、眉根を寄せて。
でもすぐに、目を大きく見開いて。
「…しそ……スか?」
「正解」
彼が今、口にしたのは、フライ。
薄く延ばしたひき肉に、しそを貼り付けて、揚げただけの代物。
もちろん、こしょうとか塩は、ふったけど。
「どう? ダメ?」
「いや……うまいっスよ」
「よかった。先週、おかずが似たようなものばっかりって言われたから、今回はちょっと、考えちゃった」
正直に言えば、彼は笑う。
つられるようにして、私も笑う。
……何だろう?
すごく、楽しい。
ドキドキはないけど、楽しい。
安心…してるのかな。
何となく。
「橘って…高いよね」
「は?」
口にしたことに、彼は箸を止めて。
私の顔を、凝視してくれる。
それに、小さく笑って。
「精神年齢」
そう、付け加えてみた。
「…そうっスか?」
「うん。少なくとも、私よりは高いと思う」
「………」
「何か、安心しちゃってるから」
「……別に…いいっスよ」
ほら。
彼はそう言って、包んでくれる。
この空気は、とてもあたたかい。
気があると、思われてるかな?
勘違い、させてしまってるだろうか。
でも何だろう?
流されてもいいかなって、ちょっと思ってしまってる。
「……最低なやつ」
小さく呟けば、彼は「先生?」と、顔を覗き込んできて。
私は小さく、首を横へと振った。
龍太郎とは…ドキドキの方が、多い。
安心感はないけど。
でも彼は、安心の方が、多い。
圧倒的に。
とはいえ、好きかと聞かれても。
私はどちらを取ることも、できない。
忘れてない所為も、あるし。
何より。
そういう気持ちが、まだ湧いてない。
キス、してるくせに。
考えながら、シフォンケーキにフォークを刺して。
欠片を口へと、放り込めば。
そこに広がったのは、少し渋いとも言える、味。
「………」
「先生?」
「…甘くて渋い……」
率直に言えば、目の前の表情は微苦笑に変わる。
でしょうね、なんていう、言葉と共に。
「お茶?」
「そうっス」
「だから緑茶」
「……」
「紅茶であるからって、やってみた感じ?」
「その通りっス…」
「うーん……抹茶でやらなかったのは?」
話を聞きながら、もう一口、運ぶ。
別に、嫌な渋みじゃない。
ただ、もうちょっと何か、欲しい。
「在り来たりかな…とか、思って……」
生クリーム…じゃ、ないな。
かといって、カスタードでも、ないけど。
「あえてって感じで、緑茶、使ったんスけど……」
あんこ……。
「? どうかしたっスか?」
「ホイップクリームってさ、何か、液体状のもの混ぜたら、やっぱりちょっと、固まらない?」
「…そりゃ……」
「そっか…固形ってのも……変かも……」
「?」
「牛乳っぽい味のクリームって…作れない?」
「牛乳…っスか?」
「うん」
頷けば、彼は考えてくれて。
それから、立ち上がって、キッチンへ。
その背中を見ながら、わたしはもう一口、口の中へと、放り込む。
シフォンケーキといえば、添えられるのは、クリーム。
緑茶と言えば、和菓子だけど。
あんこは…何て言うか、甘さが強い気がする。
「できる?」
立ち上がって、彼の隣りへ、歩を進めてみれば。
彼はもう、泡立てていて。
「橘?」
「別に固形、変じゃないスよ」
そう、言葉を落としてくれた。
「粉末のがあるから」
「粉末?」
「そう。それ使って、砂糖少なめにして…」
八分立て辺りで、彼は泡だて器をボールから上げて。
そして、「手」と、短く私に言ってくる。
でもそれを無視して、人差し指ですくって。
舐めてみたら。
「…ミルクだ」
「言い換えなくてもいいっスよ…」
それをちょっともらって――お皿の上に乗せて――ケーキを付けて、食べてみたら。
「あんこも欲しいかも…」
そんな結論に至って。
「和の要素を強くした方がいいんスね」
彼は言いながら、メモを取って。
その姿に、自然と笑みが零れた。
本当に、彼と一緒にいるこの空間は、安心できる。
彼と日曜日を過ごすようになって、一ヶ月。
楽しみにしてる自分がいることも、本当なんだ。
視線がちらりと向いて。
私はまた、小さく首を振る。
流されてもいいと、また思ってる辺り。
やっぱり私は、最低なやつなのかもしれなくて。
それでも。
この時間を失うことを、怖いと思っていた。

END

 

やばい…!
どっちに転ばせよう……!(おい)
どっちも好きだから、大変です。
まぁ、書いていけば、そのうちに……ねぇ?(苦笑)

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