何が好きかとか
あまり 考えないようにしている考えてしまえば
必ず
俺の周りには
嫌いなものばかりが
残ってしまうから
大事な ことは
天気はよくも、悪くもなくて。
エントランスを抜けた直後に、空を仰ぎ見て、息を吐いた。
別に、どんな天気でもかまわない。
俺の、これからの行動に、支障が出なければ。
そう思いながら、一歩を踏み出せば。
「一ノ瀬」
後ろから、声。
振り返れば、どこか嘘臭い、笑顔。
「おはよう」
「おはようございます」
届けられた挨拶に返せば。
彼女は隣りへとやってきて。
「どこか行くのか?」
そんな問いを、投げてきた。
至極当然の、話の流れ。
「家に」
「そうか。大変だな」
「もう慣れましたから」
「大変だな」
少し強く、もう一度言われて。
俺は、黙り込む。
大変だとか、考えたことはない。
まぁ、初めの頃は、思っていたかもしれないけれど。
それでも、仕方がないと、諦めた。
……諦めた?
「あー、曇りか」
眉根を寄せる。
彼女の言葉に、ではなくて。
もちろん、自分が思ったことに、対して。
「これから出かけるんだが……雨、降らないといいなぁ」
「降ったら降ったで、いいじゃないですか」
風が強いとか、そういうことじゃなければ、かまわない。
彼女を見ることなく思っていれば、頬に、何かが触れて。
それは、彼女のもの以外、何者のものでも、なかったけれど。
それが何かを、確認する前に、頬は小さな痛みを発して。
「……先生、何してるんですか」
「いや、素直じゃないな、と思ってな」
言ったあと、彼女はもう一方の手でも、俺の頬をつまんでくれて。
少しだけ、引っ張ってくれる。
常に鈍痛を、俺の頬は訴えていて。
「本当は、そう思っていないだろう?」
「………」
「桜川との旅行は、楽しかったか?」
「………」
「楽しかったか?」
楽しかった…なんて、考えたことはない。
それでも、『彼女』がいてくれてよかったと、そう思ったことは、何度もあった。
そう、俺にしてみれば、あれは。
旅行と呼べるものでは、なかったから。
「逃げ出したいと、わずかにでも考えているのであれば。その心の叫びに、向き合うことだ。どこかに、ではなくて。ずばり――な、場所を、思い浮かべるのであれば、なおさらな」
手が離れて。
その手は、肩を叩いて。
彼女は俺から、本格的に離れていく。
逃げ出したいなんて、考えたこともない。
無理に決まっているから。
「………」
「私も今、逃げ出したくてな」
顔を上げれば、彼女はまた、空を見上げていて。
「それでも、立ち向かうことを選んだから、頑張ろうって、思ってる」
「それは…橘のこと、ですか?」
「知ってるのか?」
振り向いた彼女に、頷けば。
静かに、彼女は目を細めて。
「それも、あるが……一番は、自分のこと…だな」
その笑みは、どこか、淋しそうで。
思い出した笑みは、満面のもので。
「晴れると、いいですね」
「……だな」
彼女が一歩、踏み出したあとで。
俺はもう一度だけ、空を見上げた。
END
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