その場所で足を止めたのは
先に 足を止めたのは
意外にも……彼女で手を握って
頭を撫でて
そうして
にっこりと笑う
その姿に
俺はふっと
呆れ交じりの微笑を浮かべた
cocksprur coral tree
その日。
フリマに行きたい! と喚いた彼女の希望に添って。
俺たちは森林公園へと足を踏み入れていた。
特にほしいものなんか、なくて。
彼女曰く、見ているだけで楽しいらしい。
その気持ちは…、わからなくはないけど。
そう思っていたのに、彼女は何度も足を止める。
それは、写真だったり。
ガラス細工の小さな小物だったり。
そんなものだった。
俺も、彼女が興味を持ったものは、気になって。
足を止めて。
それに、二人で視線を注いでいた。
……の、だけれど。
気がつくと、隣りから彼女の姿は消えていて。
それに気づいた直後、俺は周りに、視線を配る。
「あいつ…」
吐き出して。
いつもみたいに、何かに興味を持って、離れていったんだろうことは、わかり切っているのだけれど。
一言、何か言っていってほしいというのは、俺だけの願いではないと思う。
ぐるりと見渡して。
そこに、姿がないことを、確認して。
彼女を捜すために、そこから足を踏み出した。
今まで通った中で。
彼女がどうしても、と言うぐらい、気になったものは、なかったはず。
となると。
ここから先――だとは思う。
視線の先を、何度も変えながら、進んでいって。
さっき、俺がいた場所からすれば、ちょうど死角の位置。
そこに、彼女はいて。
店番は、誰もいないそこで。
彼女はにっこりと、笑みを浮かべていた。
「お留守番してるんだ? 偉いね?」
そんな風に、話しかけている相手は、ぬいぐるみ。
首から、『今、お昼食べに行ってます』なんていう、札を下げている、ぬいぐるみ。
頭を撫でて。
握手をするみたいに、手を取って。
上下に振って。
それに、呆れたように、俺は微笑う。
「田端」
声をかければ、彼女は俺を見て。
「あ、葉月くん」
なんて、俺の名前を呼んだ。
「捜した」
「…あ。ごめん」
「………」
「つまらなくなっちゃって。先に来てました」
「………」
「そしたら、この子に会いました」
俺の方に、顔を向けるように抱いて。
手を振らせる。
それを横から見て。
彼女はくすくすと嬉しそうに笑う。
それが、何だか意外で。
「似合わない…」
そう、小さく呟いてた。
気が、ついたら。
「…それって、僕がぬいぐるみを抱いていることがですか?」
「…ああ」
「酷いなー。僕だってね、人並みに、女の子が好きなものは好きだったりするんですー!」
ぶーっと言いながら、頬を膨らませて。
彼女はぬいぐるみの頭に、あごを乗せる。
それから、くるりとぬいぐるみの向きを変えて。
顔を見て。
にっこりと、表情を変えてた。
「この子、連れて帰りたい」
「……おい」
「売り物じゃないのかな?」
「値札は?」
「ないのです」
「…それじゃ、売り物じゃないんだろ?」
言えば、彼女は目を細めて。
俺に怒っても仕方ないだろ?
思いながら、息を吐く。
と、彼女は渋々とそれを元の場所へと置いて。
じっと、その顔を見つめて。
「また、どこかで会えたらいいね?」
と、綴って、もう一度だけ、頭を撫でてた。
札を直して。
バイバイ、なんて、小さく手を振って。
俺の腕に、手を絡める。
「さて、残りを見ますか!」
まだ未練がありそうな顔で綴りながらも。
彼女は歩きはじめて。
俺も、彼女に引っ張られるようにして歩いていく。
それでもやっぱり。
ちらちらと、後ろを振り返っていて。
俺は小さく、微笑っていた。
END
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