| どうしよう? 朝起きて
思ったことは
天気よりも
授業よりも
ただただ
それだけ
carrefour
毎日、考えて。
その日の行動を、すべて決めていく。
といっても、本当に決めるのは、休み時間と昼休みだけ。
あとは時間に流されていけば、いいだけだから。
授業中の、優しい視線に、少しドキドキして。
昼休みに、来るかもしれないと、やっぱりずっと、ドキドキして。
そうやって、学校のある日は、終わっていくのに。
問題は、そう。
今日、なんだ。
起きて。
カーテンを引いて。
少し、薄曇の空に、息を吐いて。
朝ごはんを食べて。
洗濯して。
掃除して。
いつものその時間を指す時計に、ため息を吐いた。
先週までは、何にしようって、考えはじめて。
少し嬉しく思いながら、台所に立ってたのに。
今日はこんなにも、考えてる。
毎週、行ってたのに。
急に行かなくなったら、やっぱりおかしく思うかもしれない。
……とか。
急に予定が入った、とか、明日言えばいいかもしれない。
……とか。
約束、してたわけじゃないんだから、行かなくてもいいじゃない。
……とか。
色々、考えちゃうけど。
結局、思うのは。
あの優しい時間を、手放したくないということ。
あの、何よりも安心できる時間を、失くしたくないということ。
「………」
部屋の中央で、立っていたのだけれど。
そこまで考えて、わたしは時計から視線を外した。
好きだったのは、笑顔。
嫌いなものを、それとなく入れておいた時は、頬を膨らませたり。
軽く睨んできたり。
小さく、文句を言ったりしていた。
そういう瞬間が、すごく好きだった。
「……っス」
同じ言葉で、扉は開かれて。
私は少し、そこで佇んでみる。
何で、安心できるんだろう?
それを少し、考えたくて。
「…先生?」
「………」
呼ばれて。
とりあえず、中へと一歩。
そうすれば自然と、扉は閉まって。
「………」
龍太郎と、彼は違うのだと。
ここで、確認する。
年上と、年下の差、かもしれないけど。
私から歩み寄らない限り、彼との距離は、縮まることはない…。
………。
……本当に?
「先生?」
「何だろう…?」
「?」
「比べたって、仕方ないのにね…?」
「………」
「橘は橘で。龍太郎は龍太郎で。あいつは…あいつ、なのに」
言い切れば。
私の視界に、陰が降りて。
鼻腔をくすぐるのは、甘い臭い。
背中には、あたたかい手があって。
顔を上げれば、彼の肩越しに、シュークリームが、テーブルの上に置いてあるのが見えた。
「今日……来ないと思ってた」
「うん。来ないことも、できたんだけど」
「でも、先生はここに来た」
「…来ちゃった」
「優しくしてほしかったんスか?」
「…ううん」
首を振る。
優しさは、欲しくない。
欲したのは、あの頃と似たような、安心の時間。
何も考えずに、過ごすことのできる、そんな時間。
抱き締められた、腕の力が強くなる。
それに、安心してる、自分がいる。
彼は、私のものじゃないのに。
「どうすれば…いいっスか? オレ……」
「わかんない……」
「…先生」
「聞かないでよ」
くすくすと笑って、彼の背中に、手を回す。
大きなお弁当箱が入った袋を持ったままだったけど。
後頭部に、手が回る。
大きな手が、頭を包み込んで。
その手もきっと、まだ甘い香りがするのかな、とか思ってたけど。
擦り寄ってきた頬が、何だか嬉しくて。
私はまた、笑ってた。
END
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