その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.9





本日、六月五日。
その日は、大事な友達の、誕生日で。
わたしは、授業を終えたその瞬間。
ばたばたと、教室を飛び出していた。
氷室先生がいないのは、確認済み。
だってさっき、階段を上がっていったから。
それを見てから、わたしは走り出したわけだし。
まだ部活、行ってないよね!?
思いながら、廊下を走っていく。
まだ、人がまばらな、その廊下を。
わたしの教室は、廊下の端で。
目的地は、実は、逆の端の方。
しかも、体育館に近くて。
けれど、その姿は、まだ教室内にあった。
「タマちゃん!」
出入り口で、名前を呼べば。
彼女はすぐに、顔を上げてくれて。
「玲ちゃん」
なんて言いながら、そばまでやってきてくれる。
まだ制服姿。
ってことは、これから部室に行って、着替えるんだ。
「これから部活?」
「そう。インターハイの予選も、そろそろはじまるし…。がんばって、みんなを支えないとね」
にっこり笑って、タマちゃんはそう言う。
大変だなーっていうのは、思うけど。
彼女は、いつも、「大変だけど、楽しいし、好きなことだから」って、答えるから。
それを知っているから、わたしは「頑張ってね」としか、届けられない。
手伝えることがあれば、手伝うから。
ぐらいにしか。
――でも今日は。
その話をしに来たわけじゃない。
「そっか。では、そんなタマちゃんに、約束通り、プレゼントを進呈しまーす」
「ありがとう」
くすくす笑いながら、タマちゃんは、わたしが差し出したものを受け取ってくれた。
約束っていうのは、「誕生日プレゼントをあげるから、六月六日は空けておくように!」ってやつ。
だから。
「明日くれるのかと思ってた」
案の定、彼女はそう、口にした。
「ん? 違うよ? それね、チケットなんだけど。明日限定なの」
「あ…、それで?」
「そう。というわけで、明日の午前十時! 出来ればお弁当用意して、そこに来てね?」
「お弁当って…玲ちゃんの分も?」
「…お願いします」
ぺこりと頭を下げれば。
タマちゃんはまた、笑いながら、わかったって、了承してくれた。
そんな彼女に、「部活頑張ってねー」なんて告げながら、踵を返す。
――さて、と。
あとは明日だ!






「……あ、れ?」
「おはよう! タマちゃん」
「おは…よう」
待ち合わせした、臨海公園の水族館前。
そこに、時間よりも五分早く行ったにもかかわらず、彼女はそこにいて。
わたしの隣りにいた人物は、眉根を寄せて、わたしを睨んだ。
そんなことにも、めげずに、わたしは彼女の前へと、歩を進める。
そいつの腕を――引っ張って。
「鈴鹿くん…も?」
「……ああ。はよ」
「おはよう」
戸惑いながらも、二人は挨拶して。
わたしは、それを見届けたあとで、きょろきょろと周りを見渡した。
「葉月くんは? まだ来てない?」
「え? 葉月くんもなの?」
「うん」
「おまえ……」
「ん? 何かな? 和馬くん」
また、和馬が睨んでくる。
何考えてんだよ? って、顔をして。
考えてることは一つだよ?
なんて考えながら、和馬ににっこりと、笑みを向けた。
君の気持ちは知ってるんだから。
さっさと言っちゃえば?
――とは、言わないけど。
言えないけど。
「あ、いたいた」
来てると思ったんだ。
ぱたぱたと、二人をそこに置いて、入り口の近くへと足を運ぶ。
壁に背中を預けて、彼はぼんやりと、空を見上げていて。
「おっはよう!」
そう、声を掛けたら。
彼の瞳は、地上へと、戻ってきた。
「おはよう」
「……ごめんね? 眠い?」
「…平気」
答えを聞いて、ほっとして。
わたしは二人を振り返る。
和馬はじっと、わたしを見て――睨んでて。
タマちゃんは、そんな和馬に、おろおろとしてた。
そんなに怒ることか?
思いつつ、二人に向かって、手を拱いて。
来てくれるのを、ただただ待ってた。
「おはよう、葉月くん」
「……はよ」
「おはよう」
「さてと、行こうか」
何か言いたそうな和馬を無視して。
というより、笑みで押し込めて。
背中を向ける。
文句を、言えるもんなら言ってみろ。
ま、言わないだろうけどね。
言ったら、その瞬間。
和馬は、自分の気持ちをタマちゃんに知られるか。
嫌われたかもしれない、なんて、思われちゃうか。
…の、どちらかだから。
ふふん、なんて、笑みを浮かべれば。
彼が訝しそうに、わたしの顔を覗き込んできた。
「田端?」
「いや。気にしなくていいから」
「……そうか」
そんな風に会話して。
ちらりと、後ろを見れば。
やっぱり、タマちゃんは萎縮しちゃったかのように、小さくなりながら。
和馬の斜め後ろを、くっついていた。
そのことに、和馬を見て。
まだ睨んできてたけど。
顎で、タマちゃんのことを教えてやれば。
気づいたように、慌てて後ろを振り返って、話し掛けてた。
わたしは今日は、彼のことで手いっぱいなんだから。
タマちゃんのことは、和馬に任せる。
だって、これでわたしが、タマちゃんとばっかり話してたら。
彼は別に、何とも思わないだろうけど。
君はいい気、しないでしょう?
何で呼んだんだよ。
なんて、絶対、ぼやくでしょうが。
それに今日は、タマちゃんの誕生日プレゼント。
和馬との時間を、おおいに作ってやるのが、わたしの役目なわけだから。
小さく、息を吐き出して。
わたしは前方を、見据えていた。

今日限定のチケットを出して、中へと入る。
別に、チケットなんて、今日買ってもよかったんだけど。
特別なコースを歩けるっていうから、買いに走った。
といっても、うち二枚は、和馬に出させたし。
彼の分は、すでに料金は、回収済み。
出すよって言ったんだけど、押しつけられた。
「おもしろそうだから、いい」
そんな風に。
確かに、おもしろそうだけど。
それは、和馬の反応がって話。
タマちゃんは喜んでくれるかな?
それがちょっと、心配だったりして。
だから、ちらちらと後ろを見てたんだけど。
「田端」
「んー?」
「気にしないほうがいい。あんまり」
「でもさぁ…」
「知ってるやつの目があると、あんまり言えないだろ? 本音って」
彼には今日のこと、全部話してあるから。
和馬がタマちゃんのことを好きなこと。
タマちゃんも、和馬のことを好きなこと。
それも、話してあって。
別に、くっつけようとか思ってなくて。
タマちゃんに、素敵な一日をプレゼントしたいんだっていうことを。
わたしは彼に、話した。
反対もせず、彼はただ、わかったって、言っただけで。
「…そう…だね」
「ああ」
「そうかも」
呟いて。
もう一度だけ、二人の姿を、瞳に映してから。
わたしはわたしで、今日という日を楽しんじゃおう!
そう、心を入れ替えた。
ほんの少し、暗い場所を進んで。
目の前に現れたのは、色とりどりの魚たち。
何度見ても。
何度来ても。
綺麗だよねぇ。
思いながら、ふっと笑う。
「ゆっくり行こうね?」
彼に言えば。
苦笑を零しながらも、彼は了承してくれた。
別に、二人きりにしてあげようとか、思ってない。
ただ、二人よりも、先を歩くことは、決めてるんだ。
夏の初め。
今日の空は、曇りだけど。
やっぱり、暑いから。
涼しさを求めに来る人が、多くて。
午後からのコースは、あんまり人がいないといいんだけど。
思いながら、ゆっくりと進む。
彼と話したり、タマちゃんと話したりしながら、先へと進んで。
途中の休憩所で、席を取った。
「座れてよかったねー」
そんな風に、話しながら、彼の隣りに座って。
荷物を解く。
「お昼でしょう? わたし、二人分しか持ってきてないよ?」
「大丈夫だろ?」
「うん。平気」
タマちゃんはきちんと、わたしの分を入れて、持ってきてくれたから。
男二人分は、わたしの担当。
「四人で突つけばいいっしょ?」
彼女が広げた横に、わたしが持ってきたお弁当を広げて。
彼に「はい」って、割り箸を渡した。
「これ、玲が作ったのか?」
「うん」
「…うそくせー」
「そんなこと言うなら、和馬は食べるな」
「だってそうだろ? 玲がこんなの作れるとは思えねぇーよ」
「はいはい」
「玲ちゃん、お料理上手だよ?」
「んなこと言ったってよ…」
「味は、俺が保証する」
「葉月が?」
「時々、作ってもらってるから、弁当。それに、時々家で、作ってもらうから。夕飯」
「そうそ。疑ってるのは、和馬だけ」
割り箸を割って。
小さく、「いただきます」と呟いて。
「タマちゃん、卵焼きもらうねー」
「あ、うん。じゃあわたし、から揚げもらっていい?」
「いいよー」
黄色いそれを取って、口に放り込んで。
ほんのりとした甘さに、タマちゃんを見れば。
目が合って、二人で微笑んじゃった。
「美味しい」
「よかった。玲ちゃんのも、おいしいよ?」
ふふって笑って、おにぎり食べて。
彼はわたしのと、タマちゃんのとに、箸を付けてたけど。
結局、味が慣れてるからか、わたしのばっかりを、食べてた。
和馬はやっぱり、わたしのには不信感があるらしくて。
タマちゃんのを、口にし続けていた。
まぁ、理由はそれだけじゃないのかもしれないけど。
そうやって、昼食を進めて。
終えて。
片づけてから、わたしは腰を上げた。
「もう行くのか?」
「ううん。売店、覗きたいなーって」
「落ち着かないやつだな。おまえは」
「煩いなー。別にいいでしょ? 先に行くわけじゃないんだし」
ゆっくりしてたいなら、ゆっくりしてればいいじゃん。
言い放って、わたしは一人で、そこを離れる。
目に付いたのは、やっぱり、青い色。
イルカとか、好きなんだけど。
カメは何か、マイペースで。
見てると和んじゃう。
クラゲは、おもしろい。
彼に、似てるよね。
なんて言ったら。
怒ることはなかったけど、「どこが」って、聞き返された。
「あんまり反応してくれないとこ」
思い出して、ぽつりと呟く。
と。
「何が?」
「ンニャ?」
小さく悲鳴を上げて、後ろを見れば。
そこにはタマちゃんがいて。
首を傾げてた。
「クラゲってさ、葉月くんに似てるよね? って、前に言ったことがあって」
「葉月くんに?」
「そう。で、どこが? って聞き返されたから、そう答えたの。こっちが、必死に何かやっても。あんまり反応してくれないところって」
「…マイペースだもんね、葉月くん」
「というより、周りに興味がないんだよ、あれは」
腕を組んで、一人で頷いて。
そうすれば、タマちゃんはくすくすと笑ってた。
「一瞥くれて、それで終了。自分に危害があるとわかったら、『何やってるんだ?』って、聞いては来るけど。それだけなんだよね」
「確かに、クラゲみたいだね」
「でしょ?」
顔を突き合わせて、くすくすと笑う。
そうしてから、イルカのぬいぐるみを、手に取った。
「それより……」
「ん? 何ー?」
「今日のこと…」
「うん。僕の誕生日プレゼント?」
「…やっぱり、わかっちゃう?」
眉尻を下げて、タマちゃんは言う。
それに、無言のまま、こくんと首を縦に振れば。
彼女はますます、眉尻を下げた。
「じゃ、じゃぁ。鈴鹿くんにも気づかれちゃってるかな?」
「それはない」
きっぱりと言い切れば、タマちゃんは驚いたような顔をして。
わたしの次の言葉を待ってたけど。
わたしは何も言わずに、置かれているものに、目を向ける。
「これ、綺麗だね?」
手にしたポストカードを見せて。
これ以上、会話をする気がないことを知らせれば。
彼女は特に、残念そうな表情も見せないまま、話に乗ってくれた。
――相手のことを、客観的に見られない時。
その相手から向けられている想いに気づくことなんて、皆無に近い。
そしてそれは、和馬の行動が物語ってるし。
タマちゃんの行動だって、同じもの。
だから、第三者の方が、気づきやすい。
結構、冷めてるのかもね。わたし。
思いながら、小さく息を吐いた。

それから少しして、和馬が呼びに来て。
午後のコースを、歩きはじめた。
…ん、だけど。
「これってさ、どっちに行った方がいいのかな?」
突如現れた分かれ道で、わたしはそう、呻く。
ここから先は、限定のチケットの、半券が必要。
中で繋がってる、っていうのは、壁に掲げられている地図で、わかったんだけど。
「どっちでも同じだろ?」
「それはそうなんだけど」
「今の気分は?」
「ひだ…り?」
「ラッコか……」
「可愛いじゃん、ラッコ」
「じゃあ、そっち」
いつものように、彼の腕に手を絡めていたわたしは、案の定、引っ張られて。
結局、そっちへと足を運んだんだけど。
入った直後、彼から言葉が降った。
「鈴鹿たちがいない」
「…何ぃー!?」
クルッと振り向いても、二人は入っては来なくて。
ゲートの向こうにも、姿はなかった。
ということは。
「向こう側に行ったな」
「行かれたな」
「どうするんだ?」
「…先に進む。放っておけって言ったのは、そっちだし」
「……だな」
肩を落として、ゆっくりと足を踏み出す。
先に進んでいた理由は、これ。
和馬がタマちゃんを連れ出せるように。
いつでも。
でも…ちょっと悲しく思うのは、やっぱり、友達だから、なのかもしれない。
「中で合流しても、進む方向が逆だね」
「だな」
「……はぁ」
息を吐いて、水槽へと瞳を映せば。
ラッコが貝を持った姿で、わたしを見てた。



二人と別れて、まだ明るさの残る空を、見上げる。
楽しかったんだけど。
なーんか、淋しい。
「おつかれ」
「そっちもね。どもでした」
公園の入り口。
車両が入れないようにと、通せんぼしている、ポールに腰掛けて。
彼の顔を見た。
何か、全部わかってるぞっていう顔をして、彼は小さく、微笑してた。
それに、わずかに睨めば。
メール一通、携帯に飛び込んできた。
開いてみれば、タマちゃんからで。
ありがとうの言葉が、綴られてた。
どういたしまして、みたいな言葉を打って、送り返す。
「紺野?」
「そう。ありがとうって。葉月くんにも」
「そうか」
「うん」
そんなことを話していると、今度は和馬からで。
珍しいなーなんて思いつつ、開けば。
面と向かってだと、躊躇ってそうな、感謝の言葉が綴られてたから。
わたしは「和馬に感謝される謂れはないよ」って、メールを打った。
「今日はタマちゃんの誕生日なんだから。君はただ、付き合ってくれればよかったの」
そんな風に。
気づくか気づかないかは、別として。
「動いたかな?」
「だと、いいんだけどな」
「ね?」
くすくす笑って、立ち上がる。
送ってくれるという言葉を、わたしはまた、いつものように辞退して。
家までの道を、歩き出した。
別の道を歩きはじめた彼に、手を振って。

END

 

去年書けなかったので、今年は女の子達、中心で。
なので、男の子達は、書きません(珪くんは別)。

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