その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う
だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?
この世界に形を持ってうまれてきたものに
無駄なものは一つとしてない
わたしはそう――信じているから
birthday vol.8
ふふふ…なんて、思いついたことに関して、少し自棄になってた。
どう考えても、今からなんて無理。
というより。
細かすぎて、多分わたしじゃ、最後までは出来ない。
だからと言って、出来上がってるものを買うのは、納得いかないし。
うーん、なんて考えながら、廊下を歩く。
どうすればいい?
どうすべき?
自問自答を繰り返して。
腕を組んで、歩き続けて。
「ムズイ……」
「何が?」
零した言葉に、返答があったことに、わたしは驚いて、瞼を上げた。
もちろん、足も止めて。
「びっくりしたぁ…」
「そうか」
「うん。急だし」
「…それで?」
促されて、見上げて。
わたしは一つ、息を吐く。
「いつものこと」
「毎月の?」
「そう」
「誰かの誕生日…あったか? 今月……」
呟いて、彼は眉根を寄せた。
それにまた、わたしはうーん、なんて、声を上げる。
そうしながら、また、歩き出して。
「知らないと思うよ?」
「?」
「尽がね、どこからか仕入れてきた情報だから」
「………」
「理事長先生の、誕生日がねー…」
呟いて、わたしはまた、息を吐いて。
肩を落とした。
どうするよ?
なんて、また考え出す。
「候補は?」
聞かれて、考えて。
「あることには、ある…んだけど」
「けど?」
「あと一週間ないのに、用意出来るわけないじゃん、的なもの」
「?」
「理事長先生に何が似合うかを考えたのね?」
「ああ」
「で。その結論が。
あの…瓶の中に、船の模型? が入ってるやつ、あるでしょ?」
「ボトルシップ?」
「そう言うの? とにかく、それ」
「確かに…似合うかもな」
「でしょ? でもさ、作れないでしょ? 時間的に」
顔を前から覗き込んで言えば、彼は「…だな」って言ってくれた。
だからわたしは、身体を起こして、ため息。
「そうかと言って、出来てるものを――っていうのも、何か嫌だなーって」
「わがまま」
「煩い」
見下げられて、わずかに睨む。
けどすぐに、二人で笑ってた。
「さて、どうしようか?」
「俺に聞くな」
「そうなんだけど。……どうすべき?」
「だから……」
言おうとしたくせに、彼は途中で口を閉ざす。
それから眉根を深く寄せて。
わたしはその表情を、ただただ、横から見続けてた。
どうしたのかなー? なんて。
そんなことを思いながら。
「田端」
「はいはい? 結論、出ました?」
「そうじゃない。そうじゃなくて……」
「ん? うん」
「出来かけのなら…あった気がする」
落とされた言葉に、わたしは目を見開く。
また、足を止めて。
彼の顔を見上げて。
出来かけって、何の?
でもって、どこに?
「昔、祖父さんがやってて…」
「やってて?」
「で、見てたら、やるか? って話になって…。
一式、俺…確か…もらって……」
「もらって?」
「ちょっとずつやってた」
「でも、最後までやらなかった?」
「ああ」
「んじゃ。葉月くんチに、その、ボトルシップになりかけてるものがある?」
「ある…と思う」
「んじゃ、今日、葉月くんチに行ってもいい?」
話を先へ先へと促して。
最終的に行き着くのは、そんな所。
彼はわたしを見て、息を吐いて。
「まだ、取っておいてあるかどうか…わからないけど……」
それでもいいならって、言いそうになった彼に。
わたしははたと気づいて。
彼の目の前に手のひらを広げてみせて、その言葉を止めた。
彼は驚いていて。
「てかさ、思ったんだけど」
「………」
「それ、僕がもらってもいいの?」
「…ああ、そうか」
呟いた彼の次の言葉を、わたしはただ待つ。
彼が昔。
幼い頃に。
お祖父さんからもらったもの。
亡くなったと、そのお祖父さんのことは聞いたから。
だとすれば。
わたしにあげる…なんてことは、出来ないはず。
しかもわたしは、それを別の人にあげようとしてるんだから。
「………」
答えはなくて。
むしろ、その方が当たり前で。
わたしはゆっくりと、足を踏み出す。
それを思い出してくれただけでも、わたしは嬉しかったから。
「やっぱいいよ。出来てるものを買うから」
振り返って、わたしは言って。
一つ、伸びをした。
けど、その手は取られて。
「いい。おまえにやる」
「ちょっ…」
「欲しいんだろ?」
「けどさ。僕、それを理事長先生にあげちゃうんだよ?」
「だな」
「だなって……」
「べつにいい。俺が持ってても、きっと最後までやらないと思うし」
「でも、さぁ…」
「それに、今思い出したのも、きっとそのためだと思う」
「?」
「ずっと忘れてたんだ。けど、今思い出した。
それって、そういうことだろ?」
「僕に…理事長先生にあげるため?」
「ああ。ちゃんと飾ってくれる人の方がいいだろ?」
言って、彼は歩き出す。
その背中に、ちょっとだけ、心配だったんだけど。
多分、これ以上聞いても、意地になって、いいという言葉を繰り返すだろうから。
わたしは彼の言葉に、甘えてしまうことにした。
一緒に帰って、探し出して。
それから。
彼の家で、細かいだの、面倒臭いだのと文句を零しつつやって。
そして――当日。
わたしは廊下を走っていた。
あれは元々、彼のもので。
わたしのものではなくて。
今は別の人のものになってしまっているけれど。
あれは、彼のものだったはずのもの、だから。
彼に報告するのは、当然のことで。
それをいち早く報告するために、走っていたわけなのだけれど。
「っ!」
ツルッと、足元が滑って。
「うきゃっ!」
って、悲鳴を上げた瞬間に、わたしは見事に尻餅を搗いていて。
いったー…、なんて、声を上げつつ。
わたしはとりあえず、腰をさする。
あーもう。
何でこうかな?
廊下に手をついて、立ちあがろうとすれば。
上から声が降ってきた。
「何やってるんだ?」
って。
だからわたしは、上を向く。
「見てわかんない?」
「…わかる」
「なら、聞くんじゃないの」
「いや…、一応な」
言って、彼は手を差し出してくれる。
いつかのように。
あの、初めて会った。
入学式の日みたいに。
だからわたしも、あの時と同じように、彼の手を取った。
「で? どうしたんだ?」
「あ、そうそう。君のとこ、行こうと思ってたの」
「?」
立ち上がって。
彼の手をきゅっと掴んだまま、わたしは笑う。
にっこりと。
「ありがとうを言いたかったから」
そう、言葉を綴って。
それで、彼はわかってくれたみたいで。
「よかったな」
そう、言ってくれた。
「というわけで。今日は僕が奢ってあげるから」
「バイトの時?」
「そう。いらないなら、いいけど」
「冗談」
くすくす笑って、歩き出す。
手の代わりに、彼の袖口を持って。
でもすぐに、腕を絡めて。
二人で教室へと、歩いてた。
END
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理事長ー!!
です。
最後の最後まで、出てきませんでした。
出たの、前日の夜。
しかも、寝る直前。
しかし、みんな、誕生日、前半に固まってるんだよねぇ…。