その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.7





さて、どうするか。
思いながら、廊下でただ、佇んでみる。
隣りの教室から出てきた人たちが、わたしのことを横目で見ながら、去っていくけど。
別に、目を合わせようとか、思わなかった。
見られる理由は知ってる。
から、特にどうしようとかは、思わない。
そんなことを考えていると、少し離れたところにある扉が開いた。
先生が出てきて。
それは、HRが終わったことを告げていて。
それでもわたしは、後ろの扉から、誰かが出てくるのを待っていた。
ちょっと、離れた場所から、そこを見る。
ふぅ、と一つ息を吐くと、ようやく一人、生徒が出てきた。
それを確認して、中へと入るべく、一歩を踏み出す。
今日は、彼に頼みがある。
から、無理にでも、喫茶店辺りに寄ってもらう。
決意を固めて、彼のクラスへと、足を踏み入れた。


目の前で零された欠伸に、わたしは眉根を寄せる。
頼むからきちんと聞いてくれ!
言いたいのを我慢しつつ。
根気強く、口を開いた。
「買い物、一緒に行ってください」
「どうして?」
「さっきから言ってるでしょうが!
…三原くんの誕生日プレゼント、買いに行くからって」
「だから、どうして俺も一緒に…なんだ?」
「………」
「田端?」
「その……瑞希さんから、三原くんのお気に入りのお店、教えてもらったのですよ」
「で?」
「……昨日、学校帰りに行ってみたのね?」
「…ああ」
「……一人じゃ、入れなかったの…です」
「………」
思い出して、俯いて。
それから、ちらりと彼を見る。
思案中らしく、眉根を寄せてた。
それから、はぁと、ため息を吐いて。
わたしをその瞳の中央に据える。
「やめとく」
「何で!?」
「何ででも」
「………」
「………」
「もしかして、さっきの、まだ怒ってる…とか?」
「………」
「うわ! 懐狭っ!」
「…煩い」
さっき。
一緒に帰ろうと、彼を誘いに行った時のこと。
机に突っ伏して寝てたから。
わたしの気持ちも知らずに、寝てたから。
頭の上に、持ってた鞄を置いてみた。
わたしとしては、軽くやったつもりだったんだけど。
置いた瞬間、鞄の中で小さくゴトッて音がして。
そしたら、むくりと彼が起きた。
相当痛かったらしく、頭を押さえながら。
その時に、散々文句を言われたんだけど。
わたしが黙って聞いていたからか、彼はすぐに、それを押し留めてくれた。
だって仕方ないでしょ?
彼への頼みごとを抱えていたんだもん。
彼の機嫌を損ねるようなことは、したくなかったし。
…んだけど。
彼はまだ、実は怒っているらしかった。
「……ごめんね?」
「…べつに」
「でも、まだ怒ってるんでしょ?」
「違う」
「じゃあ、何だって言うのさ?」
「………」
「怒ってるんでしょ?
だったら別に、無理して付いてきてくれなくてもいいよ」
「いいのか?」
「うん…。嫌だけど、頑張って入ってみる」
嫌だけど。
勇気、出ないけど。
店の外観を思い出して、また吐息。
……すると、彼からもため息が零れた。
「また、誰か誘う、とでも言うのかと思ってた、俺」
「誘える相手、いないです」
「須藤は?」
「多分、瑞希さんがあげるものを一緒に探しちゃって。
個人的なものは、一切見られないと思う」
「………」
「そうなると、個人で用意できないじゃない?」
「……だな」
「したらしたで、瑞希さんもいい気持ち、しないだろうし。
僕は僕で、ありがとうの気持ち、全部届けられないし」
「……ああ」
「それはそれで、嫌だし」
「………」
「だから、一人で行く」
話、終了。
ま、今回はわたしが悪い。
仕方ない。
思いつつ、伝票を片手に、立ち上がった。
視界の端で、彼も立ち上がったのを確認する。
けど、レジへと向かう途中。
金額を確認していたわたしの手から、それは取られる。
すっと、引き抜かれて。
「葉月くん?」
わたしは彼の名を口にしながら、振り返った。
足を止めれば、彼はすでに、止まっていて。
「?」
わたしは首を傾げて、彼を見る。
「このあと、用事は?」
「ないけど?」
「飯、食いに行こう」
「………」
「もちろん、おまえのおごりでな」
「…理由は?」
「そうしてくれたら、行ってやる」
「!」
「明日でいいか?」
「お願いします!」
笑みでそう届ければ。
彼も微笑を浮かべてくれた。
本当に、薄いものだったけど。
それでも、嫌じゃないっていうことが、とにかくわたしは、嬉しかった。




次の日。
駅前広場で待ち合わせして。
彼を先導して歩くこと、数分。
そこで立ち止まると、彼は長々とため息を吐いてた。
もちろん、数瞬。
目を大きく見開いて。
そうやって、驚いてから。
「入れない…でしょ?」
「……だな」
かなり高級そうな作り。
大きいし、高いし。
ガラス張りだし。
わたしたちの格好じゃ、ちょっと入れないんじゃないか、なんて思ってしまう。
気後れって、やつ。
そんなオーラが出まくりな、建物。
それでも。
出入りしている人は、まちまちで。
そりゃ、中にはそういう人もいたけど。
というより、そういう人たちの方が多いけど。
でも、そこまでじゃないっていう人たちだって、いた…から。
平気なんだなーとは思う。
思う…けど。
一人じゃちょっと、入る勇気は出ない。
いくら、三原くんのためでも。
友達のためでも。
「こういうとこって、一回入っちゃえば、二回目からは平気なのかもね」
「でも、その一回が大変なんだろ?」
「……だね」
彼の言葉に、深く深く、ため息。
それから、お店を仰ぎ見た。
白い壁。
柱とか、外壁とか。
そういうのが、何となく、お城って雰囲気。
三原くんは似合うだろうな。
あと、瑞希さん。
あと……彼も。
言ったら嫌な顔するだろうから、言わないけど。
「行くか」
「…おー」
小さく決心。
二人同時に足を踏み出して。
扉をくぐったのは、二人同時だった。

早く終わらせたいっていう気持ちもあったけど。
見たこともないものばっかりだったから。
実は結構、おもしろがってもいた。
そんなわたしに気づいて。
彼はわたしを睨んでくれた。
薄く。
軽く。
それに、わたしは急いで歩を進めていく。
場違いな感は否めない。
けどでも。
この次、いつこんなお店に入れるかわからないから。
遊んでおきたいっていう、気持ちもあるんだよ。
「何がいいかな?」
「…決めてなかったのか?」
「そう」
答えれば、彼はまたもや吐息。
わたしは無視して、目の前のものに、視線を滑らせる。
目の止まったのは、鏡。
そういえば去年、瑞希さんと一緒にハンドミラーを渡したっけ。
どれがいいかは瑞希さんに任せて。
そうしたら、瑞希さんには言わなかったけど、わたしには何か言ってた。
えーと…。
「持ち歩ける方が、ボクとしては嬉しい…だったかな?」
「?」
「去年ね? 誕生日プレゼント渡したら、言ってたの」
「三原が?」
「そう」
ハンドミラーって、確かに持ち歩くのには不向きだよね。
もうちょっと小さいものなら、平気なんだろうけど。
………。
「決ーめたっと」
視線を一ヵ所に留める。
手も伸ばして。
いくつかを手に取る。
「鏡?」
「そう。コンパクトミラー」
「………」
「何?」
「おまえ…自分で持ってるか?」
「………」
「………」
「…持ってない」
だって使わないもん!
思いつつ。
隣りでくすくすと笑い始めた彼を睨む。
悪かったね。女の子らしくなくて。
頬を膨らませつつも、一つのものに決める。
会計を済ませようと踵を返したら。
まだ笑ってた、から。
彼の肩を一度だけ、バシッと音を立てて、叩いてあげた。



屋上で、空を仰ぎ見てた。
寒いなーとか思いつつも。
コートを着てたから、そんなでもなくて。
ポケットに手を突っ込んで、空を見てた。
突っ立って。
白い息を吐き出しつつ。
「…楽しいか?」
「さぁ?」
そんなに大きくない雲が、視界を横切っていく。
上空は風が強いらしい。
ま、ここも結構風、強いけど。
「戻らないのか?」
「戻るよ?」
「………」
「もう少ししてからだけど」
「………」
後ろからは、ため息。
放っておいてくれてもいいのに。
思いながら、視線を下げた。
ちょっと、勇気いったなー。今。
ずーっと見ていたいものから、瞳を逸らす時って、いつもそうだけど。
なんてことを考えながら、振り返る。
眉根を寄せた彼に、笑いながら、身体を向けた。
「渡したのか?」
「渡したよ?」
「そうか」
「うん。で、すぐにポケットに入れてくれた。内ポケ」
「……そうか」
「大事にしてくれるって。かなりほっとした」
「だろうな」
開けたドアに背中を預けて、彼はわたしを待ってくれていて。
少し寒いのか、ポケットに手を突っ込んでた。
「どうしたんだ? 急に…こんなとこ」
「何となく。もうすぐ、一年、終わっちゃうなーって」
「…ああ」
「そんなことを考えたらね」
「淋しいのか?」
「…うん。だと思う」
もうすぐ、一年が終わって。
そうしたら、わたしたちは三年生で。
止まらないってわかってるけど。
わかってるんだけど。
止めたくなる。
「どうして、ここだってわかったの?」
「何となく」
「?」
「藤井が心配してた。あと、紺野」
「ですか」
「有沢は放っとけって」
「あはは」
「須藤は…気にしてないみたいだったな」
「別に、それでいいんじゃない?」
くすくす笑いながら、屋上をあとにする。
今が楽しいから。
今がずっと続けばって、願うけど。
そんなこと、ありえないのも知ってるから。
残された三分の一余りを有効に過ごしていくだけ。
あっという間――なんだろうな。
彼の顔を見上げながら、思ったら。
なぜだか軽く、笑みを浮かべてしまっていた。

END

 

三原くん、誕生日SS〜。
でもやっぱり、本人出てきません。
ってか、次、考え付くかなー?

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