その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.6





「タマちゃん!」
まだ体育館に行ってなかった!よかった…!
なんて思いつつ、その小さな姿を呼び止めた。
本人に聞くのは気が引けたから。
そばにいる人間に聞き回ってた。
で、彼女がその、最後の人間。
「玲ちゃん?」
目の前で身体を折って。
肩で息をする。
まだ制服姿の彼女。
「ごめ…、すぐ、用事済むから」
「う、うん……」
はぁー、と最後に大きく息を吐いて、身体を起こす。
にっこり笑ってから、顔を近づけた。
ら、タマちゃんも同じように、近づけてくれた。
「和馬ってさ、今、欲しいものあるかな?」
「え?」
問えば、彼女は驚いた顔をして。
「お願い! 教えてください!」
手を合わせたわたしに、困ったような顔をしてた。
視線を伏せて、うーん、なんて、考え込んで。
「もうすぐ、あいつ、誕生日でしょう? だからさ」
「…でも……」
「んじゃ、趣味でもいいや。あいつに仕返し、したいんだ。だからさ、お願いします!」
六ヶ月前の、わたしの誕生日。
その日に、和馬はプレゼントをくれた。
…んだけど、それはわたしの部屋には似つかわしくなくて。
「少しは女らしくなれるようにな」
なんて、笑いを含んだ声で言ってた。
ハート型のクッションなんて、本当に似合わない。
わたしには。
だから確かに、なんて思ったりもしたけど。
和馬の言い方には、かなり、ムカッと来て。
帰ってから、それに、パンチを一発、繰り出してた。
そんなわけで、見返すっていうか。
仕返しをものすごく、したいわけで。
「タマちゃんとかぶらないようにするから!」
「な、何で?」
「何でって…あげるんでしょ?」
「………」
「そういえばね? 和馬、部活のない休みの日は公園でバスケやってるみたい。
この前ちらっと見かけてさ。ストリートみたいで、3on3だったよ」
「そうなんだ…」
「うん。見に行っちゃえば?」
「邪魔にならない?」
「見物人は多かったから、平気じゃない?」
言えば、彼女は「行ってみる」って答えてくれて。
それから、和馬の趣味を教えてくれた。
それに感謝の言葉を届けて、踵を返す。
部活、頑張ってね、って加えたら。
「玲ちゃんも、頑張って探してきてね?」
って、笑ってた。


別の場所で、別の人に、わたしは頭を下げていた。
はっきり言って、そっち方面はわからない。
けど、知っていそうな人間も、わたしにはわからない。
から、その…知っていそうな人間を知ってるんじゃないかなって、人間に、頭を下げてた。
「………」
目の前の人物は、無言で大きく息を吐く。
「誰かいるでしょ? スタッフさんたちの中とかさ?」
「確かに……いるけど」
「じゃあ、その人の名前教えて?」
「……知らない」
「何で!?」
「覚えてないから…だと思う」
呟いて、彼は考え込むような仕種をする。
眉根を寄せて、足元を見つめて。
だからわたしも吐息。
「じゃあ、どんな人か、だけでいいから、教えてください」
わからなければ、その人がやってることでもいいから。
呆れながらそう言って、わたしは彼の顔へと視線を上げた。
さっき、息を吐くのと同時に、身体から力を抜いてしまったから。
身体を起こすのも、同時にやって。
「休憩中…、また、おまえが持ってくるのか?」
問いに、首を傾げる。
何を?
なんて、ちょっとだけ考えてから。
「配達?」
「ああ」
小さく発した確認を意味する単語に、彼は肯定の言葉を紡いだ。
だから、「多分」って答える。
このバイトをはじめてからずっと、配達係はなぜかわたし。
最初に行った時に、どうやら彼と話していたのを、スタッフさんが見ていたらしくて。
「お呼びだよ、玲ちゃん」
って、店長は楽しそうにいつも言うから。
多分、わたしに届けさせてほしいって、頼んできているのかもしれない。
『シモン』でバイトしてる時は、いつも気が抜けなかったんだけど。
でも今は、配達に行く時と、彼が店に来た時だけは、緊張の糸が切れてる。
わたしにとっても、ありがたい一時だったりしてるんだけど。
「その時に教える。いいか?」
「まぁ、その方がわかりやすいけど」
同じ道を辿りながら、話をして。
「でもさ、配達じゃなくて、休憩で君が来ちゃったら、意味はないんですけど?」
「……だな」
「だなじゃない。だなじゃ」
隣りで話して。
わたしは彼の顔を見上げ続ける。
彼は「どうするか?」なんて、ぼやいていて。
わたしはそれに、思いついた提案を、口にした。
「あんまり長い時間、休憩が取れないように工夫するか」
「いつもそういうこと、考えてないから…無理だと思う。たぶん」
「考えてる方がおかしいって。――もしくは、君が連れてきてくれるか」
「どこに?」
「『ALUCARD』」
「どうして俺が?」
「あのねぇ? 少しは僕のために何かしてやろうって気は起こらないわけ?」
「…起こらないな」
言葉に、小さく頬を膨らませる。
毎回、頼んでるけど。
その度に、この人に頼むのは間違いだったかもしれないって思う。
現に今だって。
間違いだったかも。
って、思ってる。
「じゃあ、いい」
「?」
「ニィやんに聞いてみる。ニィやんも顔、広いし。君よりは役に立ってくれるだろうし」
「………」
「んじゃ、またあとでね?」
ひらひらと手を振って、踵を返す。
いつものことだけど。
何でいつも、店の出入り口で別れないんだろう? わたし。
彼に付き合って、スタジオがあるビルの方まで歩いてる。
小さく首を傾げてると。
「田端」
彼がわたしを呼んだ。
から、振り返る。
首だけで。
「何?」
「……何でもない」
大きく、今度は首を傾げて。
わたしはドアノブに手を掛けた。
ちらりと見た彼は、まだそこにいて。
大きく息を吐いたあと、彼も足を踏み出してた。




ふーん、とかって思う。
思うけど。
「どこがいいのかわかんないよ、ニィやん……」
メールを見ながら、小さくぼやいてた。
難しいなぁ、なんて。
でも、贅沢か。
って、考え直す。
顔が広いっていうのも、ちょっと問題だったなって。
バイトの直前にニィやんにメールを送ったら。
すぐに「心当たりがあるから、聞いてみるわー」って、帰ってきた。
で、バイトしながら…彼から来るメールを見てたんだけど。
いろんな人に聞いてくれてるみたいで、たくさんの店の名前が出された。
嬉しい。
嬉しいんだけど。
「一つでいいのー」
なんて、泣きたくもなっちゃって。
いや。だから。
贅沢な悩みではあるんだけどね?
そんなことを思っていたら、店の電話が鳴った。
店長が取って、はいはい、って答えてる。
ということは、配達かな?
隣りに。
もしくは、これから行くから、用意しておいてーっていう催促か。
どちらにしろ、隣りからだろうって思う。
店長が敬語使ってないんだもん。
ってことは、かなりのお得意さんってことだからね。
「じゃあ、待ってますねー」
あ、来るんだ。
電話が切られて。
店長がこっちを見たことで、目が合っちゃった。
別に、サボってるわけじゃないです。
思いながら、首を傾げてみる。
「お隣りさんだよ。そろそろ行きますからって」
「やっぱり」
答えに、わたしはそう発して。
店長は笑ってた。
それから視線を外して、わたしは息を吐く。
メールに視線を落として。
どうしようって、考え続けて。
ぱちんと、携帯を折って、ポケットへと押し込んだ。
テーブルを拭く手を休めずに、考えて。
とりあえず、近いところをはしごしてみようかなって、結論を出した。
テーブルの上を片づけて、カウンターへと戻る。
「玲ちゃん、洗い物、頼むよ」
「あ、はい」
途中で、そう言われたから。
小さく息を吐いた。
何かこの頃、洗い物ばっかりしてる気がする。
詮無いことを考えて、短く吐息。
中へと入って、そこで一度だけ、手を広げてみた。
洗剤のおかげで、指先がかさかさしてて。
あーあ、とかって、一度だけ。
指先を擦り合わせた。
そのあと、水を出したんだけど。
すぐに開かれた出入り口のドアに、焦点を合わせて。
「…あ、れ?」
声を小さく上げたわたしの視線から逃れるように。
彼はふいっと、目を逸らしてた。

「なるほど。そういうことなら、ルアーがいいんじゃないかな?」
「ルアー?」
カウンターの中にいるわたしの目の前に座って。
話を聞いてくれた遠野さんの意見に、わたしは一旦、手を止めた。
「ピンからキリまであるけど、店員とかに意見を求めれば、いいものが見つかるし」
「高ければ高いほどいいってことでもないんですか?」
「安いものでも、大物を釣り上げることもある。
店員がみんな、釣りの知識を持ってる店を教えるから、行ってみてごらん」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言って。
わたしは地図を受け取った。
近い場所でほっとして。
「洗い物が終わったら、休憩に入っていいよ」
店長の言葉に、わたしは肯定の言葉を返す。
最後のティーカップを拭き終えて、わたしはカウンターを出て。
向かったのは、奥のテーブル。
「葉月くん」
声を掛けると、彼は肩を震わせて。
それからすぐに、平静を保ってた。
答えは……なくて。
「あのさぁ、人がお礼を言おうとしてるんだから、振り返ってくれてもいいんじゃないですか?」
背を向けて座ったのは、絶対にわざとで。
わたしのことを無視してるのも、わざと。
何もしないと言ってしまったのに、してしまったから、照れ臭いんだろうことはわかってる。
だからこそ、お礼を言いたいのに。
「…姫条には?」
後ろから顔を覗き込んでたわたしから、思い切り視線は逸らしてたけど。
やっと返ってきた言葉に、わたしは幾分、驚いて。
それから、彼の目の前へと、歩を進めた。
椅子を引いて、座って。
「一応頼んだ。けどね、意見が多すぎて、絞れなかったんだ」
「そうか」
「そう。だからね? 本当にありがとうございました、なんですよ」
熱いものが飲めないために、アイスティーなんてものに、口を付ける。
ようやく焦点をわたしに合わせてくれた彼は、眉根を寄せていて。
「明日、買い物行って。明後日、和馬に渡す。で…言ってやるんだ」
「何を?」
「これ使って、大物を釣り上げられたら、腕を認めてあげましょう? って」
「………」
「仕返し、仕返し」
呟いて。
それから、もう一度、ありがとうって言葉を紡いだ。
彼はふって微笑んでくれて。
わたしは別のことを、口にしはじめた。

END

 

当日のことがないんですけど、終了させてください。
とにかく、間に合ってよかったー!

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