その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.5





はっきり言って、ここまで難しいとは思ってもみなかった。
っていうか。
渡す方が珍しい?
そう考える方が珍しいのかな?
考えて、息を吐いた。
ぼんやりと空を見上げて。
また、息を吐く。
もらってもらえない確率が、ものすごく――高い。
わかっているけれど、二年連続ってことを考えると。
わたしが迷惑を掛けてしまっている一人に入るんだ。
あの人も。
考えては、息を吐く。
君島くんに、それとなく言ってみたら。
「やめときなー。受け取ってくれるわけないじゃん。あのセンセが」
…という意見で。
実はわたしも、同じ意見だったり、するんだけど。
それでも何か、と考え続ける。
なっちんに言わせれば、「ムダじゃん?」で。
ニィやんに言わせれば、「そないなことで、頭を痛めとるんも、何か違う気ぃ、せぇへん?」で。
タマちゃんに言わせれば、「すごいねー、玲ちゃん」。
和馬に言わせれば、「バカじゃねぇの?」。
――ちなみにそれには、「和馬よりはマシ!」って、噛み付いちゃたんだっけ。
そこまで思い出して、大きく肩を落とした。
屋上は、この季節だけれど。
天気がいいせいか、ぽかぽかしてて。
寒くない。
暖かさを全身で感じながら、わたしは思考を働かせる。
有沢さんは、「頑張りなさい。…無理だと思うけど」と、言っていたし。
守村くんは、「えーと、難しいですね」って、苦笑してた。
瑞希さんは、「向こうは当たり前のことをしているだけよ?」って、呆れてて。
三原くんは、「その心、気持ちは素晴らしいけれど…どうして彼に?」と、小首を傾げてた。
確かに、なんて、頷いてしまったのは、もちろんのこと。
でも、卒業式のその時に、きちんとした気持ちを渡せるかどうかも、わたし的には微妙で。
だから今からって思うんだけど。
だって来年、渡そうとしたら。
「こんなことをしているよりも、卒業後の進路をどうするかを考えなさい」
とかって、言われそうなんだもん。
今の時点ではわからないけど。
でもきっと、わたしの進路希望調査書は、真っ白。
……か、フリーター、の文字しかないんだろう。
だから。
考えて、またため息。
膝を抱えて、小さくなってみたら。
重い音を立てて、その扉は開いた。
徐に顔をそっちへと動かせば。
その姿は容易に、瞳に映すことが出来た。
「おまえ、また変なこと、考えてるみたいだな」
言われて、眉根を寄せる。
「変なこと?」
「ああ。違うのか?」
「……やっぱり、変なのか…」
言って、息を吐く。
さっきからこんなのばっかり。
そう思ったら、やっぱり吐息が、口から漏れ出た。
扉が閉まる音がして。
彼はわたしのそばに立つ。
見下げられて、見上げる。
「やめた方がいいと思う?」
「べつに」
「? そう言いに来たんじゃないの?」
「違う」
「んじゃ、何しに来たわけ?」
首を傾げて見せると、彼は笑ってた。
グイッと、袖を引っ張ると、簡単に彼は腰を下ろしてくれた。
「葉月くん?」
「決まったのか?」
言われて、黙り込む。
決まってるんなら、こんなに悩んでない。
「もし――何か買ったとして。それを受け取ってくれるとは思えない」
「ああ」
「何か作ったとして。そんな時間があるなら、勉強しなさい、みたいなことを言われそうで。
またもや受け取ってもらえるとは思えない」
「…ああ」
笑いを含んだ声で、彼はそう答える。
わたしはかなり本気なんだけど。
「何かいい案、ないでしょうか?」
頼ってみれば、彼はそれなりに考えはじめてくれて。
それでもすぐに、息を吐いてた。
さっきのわたしと、同じ。
「難しいな」
「だよねぇ?」
言って、息を吐く。
授業のはじまる時間が近づいた所為で、それからいくらもしないうちに立ち上がったけど。
そこでも二人で、ため息を零してた。


何かを贈ろうと決めたのは。
弟が誕生日を教えてくれたからで。
だったらって、考えはじめたのが、昨日の夜。
思いつかなくて、それを学校にまで持ち込んで。
氷室先生の顔を見たら、ますますわからなくなった。
この人に何かを贈ろうと思うこと自体、違うんじゃないか? って。
でも、二年連続でわたしがいるクラスの担任。
何か質問して、答えてもらったってことこそ、ない
――だって、勉強関係なら、彼がいるし、有沢さん、守村くんもいる――
けど、わたしはこんな人間だから。
どこかで迷惑を掛けてるような気がする。
年賀状にも、小言が書いてあったし。
思い出して、空を見上げて。
わたしは小さく、息を吐く。
そうしながら歩を進めて。
「何か、いい案…出ました?」
後ろを歩いているはずの彼を振り返って。
そう、言葉を届けてみる。
彼はそれに、軽く首を振って。
出ていないことを、教えてくれた。
やっぱりなーなんて思いつつ、また小さく、吐息を零す。
こうなってくると、最後の手段?
考えながら、眉根を寄せる。
先生の誕生日まで、日にちはないし。
そうなると、簡単なものでしか、すませなくなる。
「感謝の気持ちを一番伝えられる方法は?」
それしか思いつかなくて、わたしは彼に、そう問いかけを出す。
彼は「ああ…」って零した後で。
「言葉」
短く、答えをくれた。
「それしかないよねー?」
「だな」
「あー! 簡単すぎて、嫌かもしれなーい!!」
声を上げて、腕を空へと掲げる。
立ち止まったわたしに追いついて、彼はぽんっと頭を叩いてくれた。
振り返れば、彼は微苦笑でそこにいて。
それは、仕方ないだろ? って言ってるみたいに見えた。
「雑貨屋、寄って?」
「かまわない」
「前日、予定通りに出ると思う?」
「出なかったら、論文でも書けばいいだろ?」
「…また、そんなややこしいことを……」
「?」
綴ったわたしに、彼は挑戦的な笑みを向けてくる。
それにムカッと来て。
「書けるけどさ」
なんて、発すれば。
彼はふっと笑ってた。



五日の日。
思い描いていた通り、宿題なんてものは出なかった。
出てくれれば、手紙だけですんだのに。
放課後、チッ、なんて、舌打ちしちゃったんだけど。
それを一緒に帰ろうと言いに来てくれた彼に聞かれて。
彼は盛大に笑ってた。
もちろん、思い切り腕を叩いて、それはすぐに止めたけど。
とりあえず今日は、寝不足で。
それでも、先月ほどじゃないから、小さく欠伸をしてた。
用意をしてたから、とりあえずはそれですんだけど。
書いてない、なんて言ったら、彼に何を言われるかわからないもん。
思いながら、廊下を歩く。
と、大きな欠伸を零しながら、彼が前からやってきた。
それに失笑を零すと、わたしを見つけたのか、彼が眉根を寄せてた。
その彼に近寄って。
「どこ行ってたの? ちょっと捜しちゃった」
「氷室先生に…呼ばれた」
「氷室先生に? 何で?」
「おまえ、渡したんだろ?」
「? うん」
「だからじゃないのか?」
「………」
わたしの横を通って、彼は教室へと歩き出す。
それに慌てて、振り返って。
わたしは彼の腕を取った。
「つまり、何? 氷室先生は、僕が一人でやったんじゃないと思ってるわけ?」
「たぶん」
「ヒッドー…。頑張ったのに……」
「受け取ってもらえたんだな?」
話が別の方向に動き出して。
それでも構わなかったから、わたしはそれに答えるべく、首を動かした。
……横に。
「違うのか?」
「無理だったから、職員室の氷室先生の机の上に置いてきた。
もちろん、問答無用で」
「………」
「しかし、君が呼ばれたってことは。
有沢さんとか、守村くんも呼ばれてる可能性…あったりする?」
「だろうな」
「……そりゃ、電話したりはしたけど」
早い時間だったから、捕まえられたけど。
でもって、答えてもらったけど。
「関心するわ。本当に」
って、有沢さんは零してた。
わたしの行動に、本当にそう思ってるのか、疑問だったけど。
だって――有沢さんの声音には、呆れが含まれてたから。
絶対に。
「別にいいけどさー。見てくれたんなら」
「だな」
ついでに、気持ちも届いているといい。
思いながら、手に力を込めた。

END

 

難しかった、です。
何がって、受け取ってくれませんからね、氷室先生。
それに第一、普通に考えて、数学の論文って…ありえないよね?
などと考えてしまいまして。
だから+αで勝負! ……ということに。
本当に難しかった……。

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