その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.4





雑貨屋で、うーん、なんて悩みながら、見て回る。
何か、は決めてある。
ただ、そのものズバリは、見てから決めようって。
そう思ってたから、ただただ、悩んでる。
普通じゃつまらない。
誰がって、わたしが。
彼がわたしの誕生日にくれたものを思い出して。
それから、天井を見上げた。
そういえば、お店の天井って、あんまり見たことないなーなんて思う。
……じゃなくて。
「プレゼントだって言うの」
呟いて、はぁ、と息を吐いた。
わたしがもらったのは、抱き枕。
だから、同じようなものがいいなぁ、なんて思う。
彼だって、自分が欲しいって思わなきゃ、思いつかない――くれない――でしょ。
やっぱり。
わたしはそう思う。
…んだけど。
手に取っていたものを、そこに置いて、小さく吐息。
そう。
これってものがない。
いいのが…なかったりして。
「ここまで来ると、自分で作るかぁ? っていう気になるよね?」
猫みたいのがいいんだよなぁ。
クッションじゃなくて、枕で。
ぶつぶつ言いながら、頭の中のものを明確なものにしていく。
ミシンとか使えば、楽だよなーなんて言いながら。
雑貨屋をあとにした。
そのあと向かったのは、もちろん。
手芸屋さん。
布と綿と糸を買って。
わたしは駆け足で、家へと帰った。

階段を駆け上がる。
今日は日曜日。
彼の誕生日までは、とりあえず、四日ある。
今日を入れて――だけど。
「集中すれば、何とかなるよ!」
自分で自分を励ましてみる。
机の上で、紙にシャーペンを走らせた。
小さな型紙を作っていく。
大きなものは、作らない。
だって邪魔なだけだし。
大体決まったら、今度は布。
小さな型紙の寸法を、同じ倍率で大きくして。
一発勝負!
なんて袖を捲ったら。
ドアが開かれた。
「あっきらー。…て、何やってんだ?」
そこにいたのは、案の定、わたしの弟くんで。
「ノックしろって、何回も言ってるんですが?」
そう、肩を落として言ったんだけど。
ついでに、目も据わらせてみたんだけど。
「いいじゃん、そんなの」
って、全然効いてないみたいだった。
効果なし。
それに大きく項垂れる。
「で? 今日、葉月の誕生日プレゼント、買いに行ったんだろ?」
「行ったよ?」
「何買ったんだ?」
「……これ?」
布の束とか、綿とか。
そういうものを指差すと、尽は眉根を寄せてた。
「まさか姉ちゃん…」
「――イメージ通りのものがなかったら、仕方ないじゃない?」
「だからって……」
ため息を吐いて、尽は机の向こう側へと回る。
邪魔をする気はないんだろうけど、机の端に、両肘で頬杖をついて、座った。
「もしかして、すっごい暇?」
「まぁな」
「んじゃ、頼んでいい?」
「何を?」
「ミシン、持ってきてくださると、ありがたいのですが」
ほんの少し、苦いものを浮かべながら言うと。
尽は盛大にため息を吐いて、立ち上がった。
そのまま真っ直ぐ、ドアへと歩く。
「下?」
「確かそうだったと思うけど?」
「まぁいいや。母さんに聞いてみる」
言いながら、尽は廊下へと出ていく。
その後ろ姿に、珍しい、なんて零した。
っていうか、彼に繋がるものだから?
首を傾げて。
それでも、一階で弟の声が響いたのに。
やらなきゃ終わらない!
って、慌てて布に向かってた。


いつもは妥協しちゃうんだ。
仕方ない。これでいいや。我慢しよう。
って。
でも、彼にはそんな気、起こらなかった。
一番、迷惑掛けてるっていう、自覚、あるし。
こういう時にしか、まとめてありがとうの気持ち、届けられないし。
ダダダッと音を発してるミシンに、わずかに悪戦苦闘しながら、作業を進める。
怖々やるから、失敗するんだよね。
これでいいんだって、自信持てば。
うまく行くことが多い。
知ってるん――だけど。
「あれ?」
ほんの少し縫ってしまったあとで、ミシンを止める。
逆じゃない?
なんて思ったら。
「あははー。その通り!」
笑顔で言って、そのあと、大きくため息を吐いた。
糸を解いて、裏返す。
「姉ちゃん、こんなもん?」
綿に空気を含ませていてくれた尽が、声を上げる。
それに、「オッケー」と、短く返した。
ら、尽は大欠伸。
壁にある時計に目を移せば、十一時過ぎ。
「もう寝てもいいよ? 疲れたでしょ?」
「…じゃあ、玲ももう寝ろよ? まだ時間あるだろ?」
「そだね。ここ縫い終わったら、寝るから」
立ち上がって。
欠伸を零しながら、尽は部屋を出ていく。
おやすみって声を掛けたら、同じ言葉が返って。
ドアが閉められた。
ありがとう。
思いながら、笑みを零す。
それから、一度はミシンに向かったけれど。
音が大きいことを思い出して。
わたしはそこまでで、その作業を終わらせた。




ふわぁー、なんて、欠伸を漏らす。
と、後頭部を叩かれた。
大きな手がやったことは、今の一瞬でも、わかる。
「いったー…」
頭を手で押さえながら、そこを見る。
席に着こうとしていた、彼がいて。
くすくす笑ってた。
「おはよう」
「おはよう。っていうか、痛いです」
「そうか」
「そうかじゃないって! これ以上バカになったらどうするの!?」
「それ以上はならないだろ」
言って、彼は座る。
それはつまり、わたしはバカってことですか?
「それより…昨日、何かしたのか?」
わたしの頭の中身はどうでもいいのか、彼は話を進めていく。
それに少し、頬を膨らませながら、「別にー」と答えた。
言えないし。
言ったら全部、パァになりかねないし。
……あ、尽に口止めしておくの、忘れちゃった。
思いながら、欠伸を噛み殺した。
結局、終わるか心配で。
明け方まで、ミシンを使わない部分の作業をし続けてた。
おかげでものすごい、寝不足。
だって明日は、バイトがある。
帰ったら、ベッドに倒れ込んじゃうだろうから。
そうなると、今日一日しか、作業時間はない。
考えながら、もう一度、欠伸をかき消す。
「保健室、行くか?」
「それってつまり。授業をサボって、寝た方がいいってことですか?」
「おまえが欠伸ばっかりっていうの、珍しいからな」
だよねー?
なんて、思いつつ、立ち上がる。
一時間目は数学。
だからちょっと、サボるのは気が引ける。
けど、二時間目ならいいかな。
英語……だけど。
「二時間目、サボる」
「そうか」
「うん。だから、英語教えてね?」
言って、その教室をあとにした。
自分の教室に入る前。
口は手で覆ったけど。
大きな欠伸が出てしまったのを、止められなかった。


使われていない教室の隅で、座り込む。
やっぱり、一時間目が限度で。
もう、はっきり言って、眠くて仕方がなかった。
カーディガンの袷を掴んで、瞼を閉じる。
と、ガラガラッと扉が開いた。
見つかったかなー、なんて思いつつ、顔を上げる。
氷室先生ってことはないだろうけど。
それでもやっぱり、説教は降るんだろう。
思いつつ、縮こまった。
けど、叱咤はなくて。
代わりに、隣りに誰かが座り込んだ。
わずかに首を傾げながら、左を見る。
「……?」
「てっきり、保健室だと思った」
「葉月くん…?」
頭がボーッとしてる。
けど、髪の色は、間違えようもなくて。
声だって、彼のもので。
先生じゃなかった。
知らない人じゃなかった。
そう思ったら。
こてっと、彼の肩に頭を乗せてた。
「借ります…」
「どうぞ」
頭の上からの声に、安心して。
わたしは瞼を閉じる。
彼は付き合ってくれるつもりなのかとか、考えることも出来なくて。
わたしはぼんやりと霞んでいく思考に。
緊張の糸を緩めていた。
無意識に絡めた腕に、くすっと笑われて。
軽く、髪を梳いてくれた手に。
やっぱり暖かいなーって、再認識して。
どこにも行かないでねって、思いながら、腕に力を込めてみてた。


ふっと、目の前が陰った気がして。
わたしは瞼を上げた。
眠りが浅いのか。
こういう、ちょっとした変化で、わたしはいつも、起きてしまう。
目を覚ましてしまう。
それでも、思考は上手く、働かなくて。
右手で目を擦っていた。
「よく、眠れたかい?」
囁くような声に、眉根を寄せる。
どこかで聞いた声……。
そう思ったから。
「田端君…だったね。氷室君のクラスの」
どこだっけ?
思いながら、コクンと頷く。
わずかにした、バラの香りに、思考は動き出して。
考え付いたことに、きちんと、すぐに顔を上げた。
「理事……!」
「シーッ」
人差し指を立てた理事長先生に、口を押さえて、こくこく頷く。
そうだった、隣りに彼がいるんだ。
でも、口を挟んでこないってことは、彼は寝てしまっているんだろう。
隣りを見ると、その通りで。
彼は項垂れるみたいな形で、眠ってしまっていた。
「彼は、葉月君、だね」
眼鏡の奥の瞳が、すごく優しくて。
嘘は吐けないなーって、そう思った。
だから、コクンと頷く。
「すみません…」
「謝らなくていいよ。疲れていたんだろう?」
「彼はどうか、わかりませんけど。僕は…寝不足で」
「何故かな?」
「それは……」
俯いて。
それから、ちらりと理事長先生を見る。
微笑を浮かべていた先生に、怒っているわけではないのかもしれないと、考え出して。
「――いつも、迷惑を掛けてしまっている人の誕生日が、もうすぐで。
そのプレゼントを、作っていたら……」
ぼそぼそと囁くみたいに言って。
隣りを伺い見る。
起きてはいないみたいで、ほっとして。
笑みを零して。
それから、理事長先生へと、瞳を向けた。
「氷室先生に言うなら、僕のことだけにしてください。
彼は多分、僕に付き合ってくれただけだと思うので……」
「何故、言わなければならないのかな?」
「え? だって……」
「必ず、そうしなければならない理由があるのなら、そうするけどね。
けれどわたしは、校則を守ってくれている生徒のことを、氷室君に言う必要はないと思っている。
違うかな?」
言葉に、くすくすと笑う。
理事長先生って、やっぱり面白い。
「ありがとうございます」
「いいや。それと」
「?」
首を傾げると、ふっと笑われて。
「レディは自分のことを『僕』と言わないものだよ」
それだけ言って、理事長先生は教室を出ていった。
言外に、やめなさいと言われているのだと気づいて。
わたしは小さく、苦笑していた。




お昼を彼と一緒して。
それから、午後の授業はちゃんと出た。
火曜日にはちゃんとバイトにも行って。
月曜日、今日だけしかないんだから。
と、真っ直ぐに帰ってきて、作業の続きをして。
結局、バイトのあった火曜日は帰ってきたら、疲れ果ててた。
出来上がったのはやっぱり。
水曜日、だった。
月曜日のあの時点で、気を抜いたのが痛かったよなぁ。
うんうん、なんて、頷く。
あ、もうすぐ終わるーとかって、別のことをし始めちゃって。
で、昨日。
やることいっぱいで、焦ってた。
でもま、出来たし。
終わり良ければ、すべて良しってことで。
尽にバイト代とかって、お小遣い取られたけどさ。
両手を上へと伸ばして、わずかに背伸び。
それから、両手を下ろすと、頭の上に鞄が乗った。
軽いその上に、腕も置いたらしく、重さが増す。
「…重いです」
「そうか」
「退けてください」
「嫌だ」
「何で?」
「おまえのそばにいれば、とりあえず、声は掛けられない」
「?」
「朝から煩い」
それは、仕方ないんじゃないの?
今日が何の日か、みんなわかってる。
だから昨日までに、悩みに悩んだ、プレゼントを渡そうって思ってる。
「今日は何の日でしょう?」
多分、忘れてるんだろうなーって思ったから、そう聞いた。
鞄を退かすと、彼は案の定、眉根を寄せてて。
「ヒント。今日は十月十六日です」
「……ああ」
わかったのか、彼は短く吐息。
日にちの感覚がないのかな?
それなら少し、わかる気はするんだけど。
「だから、仕方ないのでは?」
「……いらない」
「そう言わず。とりあえず、僕からのは受け取ってね」
手に持っていた紙袋を差し出す。
彼は足を止めて、それを見て。
「大きい…」
って、呟いてた。
「うん。これが僕の、日頃の感謝の気持ち」
「………」
「受け取ってもらえないと、これから先。
僕、君に迷惑掛けられなくなる」
「……」
「僕としては、それは困ることなので、受け取っていただきたく」
「……わかった」
持ち手を持ってくれた彼に、安心して、手を離した。
中を覗き見た彼に、嬉しくて笑う。
「去年も大きかったよな?」
「去年も同じ理由です」
ただし、これから先もよろしく、という意味も入ってたけどね。
加えて、並んで歩き出す。
「てかさ、話は戻るけど。
そばにいるだけでいいなら、別に意地悪する必要性はないんじゃないの?」
「俺がそうしたかったから」
「ヒドッ!」
「はいはい。
遅刻するぞ」
速度を上げた彼に、必死に食らいついて、声を上げ続けてた。
空は真っ青で、気持ちがよくて。
使ってね? って。
一番最後に、付け足してみてた。

END

 

……おわかりでしょうか?
玲、珪くんにそのものズバリな言葉を言ってはいません。
その言葉はあとで言おうって決めてたからです。
つまり、二日後のことをもう計画済みってこと。

とにかく、珪くん、誕生日おめでとーv

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