その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.13





「チャンスは一回」
その言葉に、うんと頷く。
「そして一瞬なんです」
その言葉にも、うんって頷く。
と、頃合いを見て、守村くんはティーポットを傾けた。
カップに注がれる琥珀色は、薄くて。
それでも、すごく甘い香り。
「三分って、あるんですけど。そこまでやっちゃうと、苦味も出てきちゃうんで。
僕は二分三十秒から四十秒ぐらいがちょうどいいと思うんです」
「はい」
「…田端さん?」
「…? 何ー?」
目の前のカップを見ていたわたしは、顔を覗き込まれて、守村くんへと、視線を移す。
一緒に聞いていたはずの彼は、小さく失笑。
「いえ…その」
「? うん」
「はいとか……堅苦しくしなくていいですから」
「………」
苦笑での言葉に、それは無理だ! なんて思う。
言わばわたしは、教わる側。
生徒なわけで。
なのに、教える側――先生の守村くんが、敬語使ってるんだよ?
それに合わせないのは、どうかと思う。
とか、渋面浮かべながら考えてると。
彼がカップを傾けるのが、目に入った。
「…甘いな」
「はい。花茶ですから」
それを聞いて、わたしもカップを傾ける。
一生懸命、息を吹きかけて。
彼の笑い声も無視して。
半分以下になった湯気に、恐る恐る、口へと含む。
「………」
そりゃ、まだ熱かったけど。
そりゃ、甘いとは思ったけど。
「…そこまで?」
なんて、眉根を寄せて、彼に放ってた。
ものすごく甘いわけじゃない。
ほんの少し、甘いかなーって感じ。
むしろわたしには。
まだ苦い。
「味覚の問題」
「………」
「田端さんは、紅茶、苦手でしたっけ?」
「あんまり、好きじゃないです…」
「葉月くんは?」
「俺も、あんまり」
「そうですか」
淋しそうに、困った表情を浮かべた守村くんに。
なぜか、ごめんなさい、なんて、頭を下げてた。
おいしい煎れ方を教えてください、なんて、言ったくせに。
それはきっと、今回限りのことなんだろうって思う。
「口直しに、甘い茶菓子なんかを用意しておいた方がいいかもしれないですね」
「……そうします」
息を吐き出しながら、肩を落とす。
とりあえず。
質問はしないと。
「守村先生、質問」
「はい、田端さん」
くすくす笑って、守村くんは手を止めてくれた。
今度はわたしの番だから。
わたしがやりやすいように、用意をしてくれてる。
「水は? ミネラルウォーターとかの方が、やっぱいいの?」
「いえ。ミネラル分があると、紅茶本来のものを消しちゃうので、水道水で充分です」
「…そうなんだ?」
「ええ。それに、一度沸騰させるので、毒性も消されますし」
「うん」
聞いたことを、手元の紙にメモして。
それから、椅子から腰を上げる。
これが出来なきゃ、土曜日の本番なんて、とても無理。
思いながら、わたしはよしっ! なんて、気合いを入れた。


ぽんっと、頭の上に乗せられた手に。
わたしは振り返らずに、べしゃっと、机の上に突っ伏す。
手に潰されました。
なんていう、意思表示。
それに、手は離れて。
顔を上げれば、目の前に座った人物。
「どうするんだ?」
そんな、言葉と共に。
「どうするって…何が?」
「もうすぐなんだろ? 有沢の」
それに、うん、なんて肯定の言葉を綴って。
それから、自分の席に着いて、参考書を捲っている有沢さんの姿を映す。
熱心だなー。
思いながら。
「それで?」
聞かれて、彼へと視線を移して。
あのね?
と、わたしは口を開いた。
「今日このあと、守村くんチに行こうと思ってまして」
「どうして?」
「当日は無理だけど。土曜日にね? 勉強会と言う名のお茶会でもやろうかなー…と」
「メンバーは?」
「有沢さんと守村くんと、僕と……よければ君も」
「言ったのか? 守村に」
「うん。快くOKくれました」
大きく頷けば。
彼はわかった、なんて言って、足を組む。
「それで?」
「? うん。で、その時に、紅茶を煎れてあげたいなーと」
「……安直」
「…るさい」
睨んで。
それでも、彼の笑みに、それを解いた。
安直でも何でも、頑張って考えたんだから。
勉強のある有沢さんの邪魔じゃなくて。
かつ、守村くんと一緒に過ごせる時間。
それで出した結論が、守村くんを含めた、勉強会。
わたしじゃ、あんまり力になれないかもだから。
守村くんだけじゃ、バレちゃうかもだから。
彼も混ざってほしかった。
多分……否定しないだろうとは、思ってたけど。
「玲」
「何ー?」
もう、彼に名前を呼ばれても、ドキドキしないって決めたから。
名前なんて…ただの記号。
そう、考えてるから。
わたしはただ、瞬きを一度、しただけ。
「今日、俺も行く」
「…はい?」
「不安だから。おまえだけじゃ」
「どういう意味?」
「そういう意味」
また、彼はわたしの頭をぽんっと叩いて、席を立つ。
理由は簡単で。
我がクラスの担任である氷室先生の声が、近づいてきたから。
だから、自分の席に戻ろうってこと。
それでもとにかく、彼の参加は決定したから。
あとはわたしが参加する、理由だけ…。
まぁ、何とかなるか。
考えながら、わたしは窓の外へと、視線を向けた。


「いいんじゃないですか?」
「…苦い」
「ちょっと遅くなっちゃっただけじゃん! 及第点!」
第一、守村くんはいいって言ったんだから!
頬を膨らませて、自分のカップを傾ける。
「………」
道は険しい。
なんて、考え直して。
崩れてた。
「花が開きはじめるのは、一分半ぐらい、経った頃ですから」
「…はい」
「それからすぐぐらいに、カップを並べて。ふたを取って、注ぎはじめれば。注ぎ終わりは、大体、三分ぐらいになります」
「! そこまで、頭に入れるの?」
「だいたいですよ。苦味が出たら、やっぱり嫌でしょう?」
「……ですね」
ため息吐いて、メモ書いて。
彼の失笑を聞いて。
睨んで。
練習あるのみ!
なんて、また気合いを入れてた。

END

 

ギ、ギリギリ?
というか、微妙ですが。
とにかく、これで終了ー。
有沢さん、お誕生日、おめでとうv

戻る