その人にとって
今日という日は
やっぱり特別なんだと思う
だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?
この世界に形を持ってうまれてきたものに
無駄なものは一つとしてない
わたしはそう――信じているから
birthday vol.11
チャイムを押そうかどうしようか迷って。
でも、迎えに行くって言っちゃったしなぁ、なんて、思い出す。
不安はまだ、胸の中にあるけど。
それでも、今、この時は。
彼がそばにいてくれる、この時は。
とりあえず、まだ続くんだし。
そう考えたら、顔を上げられた。
だから別に。
このチャイムだって、簡単に押せるわけで。
だって、追い返されることは、ないんだしさ。…まだ。
考えて。
考えて。
わたしはチャイムへと、手を伸ばす。
ゆっくり押して、離しちゃったのは。
やっぱり、まだちょっと。
怖かったからで。
それでも、扉はすぐに、開かれた。
「…どうした?」
優しい声に、ほっとする。
いつもと変わらない彼を見て。
そうだよ。まだ、大丈夫。
なんて、改めて思ってた。
「田端?」
「お迎えに上がりました!」
「……ああ」
暗い顔、してたのかもしれない。
だから彼は、明るく言ったわたしに、眉根を寄せて。
少し、心配そうで。
でもわたしは、詳しくは言えないまま。
「行こ?」
「…どこに?」
「場所提供してくれた、友達の家」
「………」
「その友達は、姫条まどかくんと言います」
「………」
「反論があるなら、どぞ?」
聞いてみても、彼はますます深く、眉間に皺を刻むだけ。
みんなで画策したのは、彼の誕生日パーティー。
だってさ、彼の誕生日だし?
思い出に残るように、出来るだけ楽しく、したいじゃない。
「行こ?」
迎えに行くと言ったから。
彼はすぐに、家を出られるような格好をしてくれていて。
だからわたしは、彼の腕を取って、引っ張った。
彼は特に、抵抗もなく、外に出てくれて。
それでもため息を吐きながら、鍵を閉める。
大丈夫。まだ平気。
考えながら、いつもしているように、彼の腕を、手で掴む。
「どうして、姫条の家なんだ?」
わたしの考えを払拭するみたいに、彼から問いが降る。
それに、二回、瞬きして。
「ニィやんも一人暮らししてるから」
そう、答えてあげた。
「…そう言えば……」
「ニィやん、一人でこっちに来てるから。ご両親は?
って聞いたんだけど、曖昧。
なっちんに聞いたら、お父さんとちょっと、仲悪いみたいで…」
「………」
「どうすべき? っていっても、どうしようも出来ないんだけどさ」
「…だな」
大きく息を吐いて。
わたしはただただ、歩いていく。
みんなで考えてる時。
場所、どうしよう? って話になって。
少し狭いかもしれんけど、って、ニィやんが名乗りをあげてくれた。
わたしんチは、お父さんがちょっと、煩いから。実は。
だから、無理で。
ほかの子達も、親の目が…って、思ってたみたいで。
だからこそ、ありがたかった。
学校が終わって、一旦家に帰って。
着替えて、用意して。
それから、それぞれのタイミングで、ニィやんの家へ。
出来る人間で、料理して。
ケーキ作って。
出来ない人は、ほんの少しのお手伝い。
わたしは、その合間を抜けてきた。
迎えに行くのは、なぜかわたしの仕事だったから。
まぁ……わかるけど。
ほかの人が、こんな簡単に、彼を連れ出せるとも、思えないしね。
じっと、彼の顔を見る。
見上げて。
気づいた彼が、視線を向けてきて。
見られて。
眉間に、皺が作られて。
あと何回、こんなこと出来るんだろう?
なんて考えたら。
多分もう、ないんだろうなって結論が出た。
だって、もうすぐ卒業。
進路は当然、違うわけだし。
そうしたらもう。
卒業したらもう。
こうやって会うことも。
こうやって、並んで、どこかに行くことも。
ないんだと思う。
「…田端?」
「………」
ずっと続くって、どこかで思ってた。
そんなわけ、ないのに。
はじまりがあれば、終わりがあって。
そんなこと、わかってたはずで。
知ってたはずで。
なのにわたしは、そう思ってた。
三年間なんていう、短い時間。
長いかもしれないけど。
過ぎてしまえば、短い時間。
それを、わかってたはずなのに。
それしかないと、知っていたはずなのに。
「…葉月くんの誕生日を祝えるのも、これで最後かぁ……」
「………」
「なんて思ったら、しみじみ」
「らしくない」
「…かも」
「………」
卒業後も会えばいいのかもしれないけど。
でも、多分。
会えない気がする。
それに、いつかいなくなってしまうなら。
そばにいてくれなくなるなら。
早い方が、いいと思う。
傷は浅く。
それだけ浅いままで。
それだけ、流す涙は、少なくなるから。
「でもま、それならそれで。今日という日を、しっかり、思いっ切り、エンジョイするだけなんですが」
「…しなくていい」
「何で? 君の誕生日じゃん」
「だから」
「えー? 羽目外そうよ」
「外さなくていい」
「でも無理だと思うけど」
「……聞いていいか?」
彼の隣りで、伸びをしていたわたしに、彼が聞いてくる。
何? なんて返せば。
彼はわたしから、視線を外す。
「誰がいるんだ?」
「僕と君と、ニィやんと」
「そのほかに。みんなって言ってただろ?」
「みんなって言ったら、みんなじゃん」
「だから…」
「まずね、我がクラスの委員長」
「…有沢?」
「隣りのクラスの、天才」
「三原…」
「天才と同じクラスの、元気娘」
「藤井…か?」
「逆の隣りのクラスの、バスケットマン」
「鈴鹿」
「バスケットマンと同じクラスの、秀才くん」
「守村」
「その二人と同じクラスの、美人で優雅なお嬢サマ」
「須藤」
「別クラスの、面倒見のいい、元バスケット部のマネージャー」
「…紺野」
「一年下の後輩くんも、部活よりも君の方がってことで、駆けつけてくれました!」
「…日比谷もか」
「それから最後。僕の弟も巻き込んでみたりして」
「………」
「嬉しいでしょう? みんな君のために集まってくれたのです!」
「……いらない」
額に手を当てて、項垂れて。
その格好で、彼は言う。
わたしはくすくすと、笑うだけ。
最後なんだし、盛大にやりたいなんて言い出したのは、わたし。
日程だって、土曜日なんだし。
みんな、どうにかならない? なんて。
必死に聞いたのは、わたし。
最後の最後の、恩返しだったのかもしれない。
そのつもりはなくても。
無意識にでも。
そう、思っていたのかもしれなくて。
だって、今までの高校生活の中で、一番迷惑を掛けたのは――彼。
ごめんねの言葉を受け取ってはくれないのなら。
きちんと、そばにいてくれてる人たちのことぐらいは、教えてあげたい。
「言っとく」
「? ああ」
「君の本当の声を聞きたい人間は、ちゃんといるから」
「……」
「僕のほかにも。手を伸ばせば取ってくれる人は、ちゃんといるから。
名前を呼べば。答えてくれる友達は、ちゃんといるから」
「………」
「君、わかってなさそうだったから。言ってみた」
ふっと笑って。
口だけじゃなくて、目元も細めて。
笑ったように見せた。
わたしは、こんなにも不安だけど。
それを彼に、悟られちゃいけない。
今日は彼にとって、楽しい日で終わらせなくちゃいけないんだもん。
わたしの心配なんか、させちゃいけない。
「さてと、見えてきたねー。あそこがパーティー会場ですぞ、葉月殿」
「何だ、それ?」
笑ってくれた彼に、わたしも笑って。
家の中に先にと、わたしが押し込んだ彼は。
入った途端に。
「誕生日おめでとー!」
なんていう、みんなからのクラッカー攻めにあって。
固まってて。
わたしは後ろで、笑ってたんだけど。
案の定。
振り返った彼に、頭を叩かれてしまった。
END
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珪くんの誕生日話。
…なんですけど。
気がついてみれば、こっちで一年目の話、書いてないや(苦笑)。
オフの方で、ちらっと書いたんですけど。
……書くべきですか? やっぱり。