その人にとって
今日という日は
やっぱり特別なんだと思う
だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?
この世界に形を持ってうまれてきたものに
無駄なものは一つとしてない
わたしはそう――信じているから
birthday vol.10
ダダダッと階段を駆け降りて。
そこがどこかも、よく確認しないまま、わたしはそこにいるはずの人物の名前を、口にする。
「三原くん!」
なんて、扉を開けながら。
そうすれば案の定。
色を選んでいたらしい、その手を止めて。
三原くんは、驚いた表情で、わたしをその瞳に映してくれた。
「どうしたんだい? 田端くん」
いつもの笑みで、わたしの名前を綴ってくれて。
パレットを置いて、わたしの目の前へと、歩いてきてくれる。
「お願いがあります」
「…キミが、ボクに?」
「うん」
頷けば。
三原くんからは、珍しいね、という言葉。
それに、しばしの間、考える。
どう伝えるのが、ベストかな? って。
「言ってごらん? ボクが叶えられるものなら、叶えてあげるから」
手で、肘を支えて。
三原くんは軽く、前髪を払う。
それから、いつもの笑みを浮かべてた。
その笑みをじっと見て。
「葉月くんから聞いたんだけど。三原くん、デザインもやるんだって?」
「そうだよ? ボクの私服は、すべて、ボク自身がデザインしたものだよ?」
「…そうなんだ……」
届けられた言葉に、わたしは彼の私服をすべて思い出して。
意見…言った方がよかったのかな?
とかって、そっちの方へと、思考を働かしちゃってた。
いいなって思ったものも、いくつかあったけど。
何でそんな風になってるんだろう? って。
首を傾げちゃうものもあったから。
……って、今はそんなこと、考えてる場合じゃないんだけど。
「それで?」
自分自身を諌めていると、三原くんが、そんな風に、先へと促してくれる。
「そんな三原くんに、お願いがありまして」
「うん。言ってごらん」
「パーティードレスのデザインを、考えてください」
「………」
高い位置にある顔を、じっと見上げて。
わたしは三原くんの返答を待って。
三原くんは、ただただ、微笑を微苦笑へと変えて、固まってた。
「ドレス…って、キミの?」
「僕は着ません。頼まれても嫌です」
「…じゃあ……」
「瑞希さんの」
答えれば、三原くんは大きく、目を見開いて。
それでも、合点が行ったのか。
「誕生日のプレゼントかな?」
そう、言ってくれた。
「うん。一緒に用意するって、約束してたでしょ?」
「したというより、させられたと言う方が、正しいと思うよ?
ボクは」
「まぁま。で、考えたんだけど。それが一番いいかなって」
「わかった。ボクはそれでもかまわないけれど…キミが創るのかい?」
「頑張らせていただきます」
拳を作って、決意表明。
それに、三原くんは小さく、声を上げて、笑ってくれて。
「それじゃ、ボクもキミに負けないように、頑張らせてもらうよ」
にっこりと笑って。
彼はそれまで握っていた絵筆を、ペンに変えてくれることを、約束してくれた。
「おまえぐらい…だろうな。三原に、面と向かって、そういうこと頼めるの」
言葉とは裏腹に、彼の表情は呆れのそれで。
わたしは小さく、頬を膨らませる。
「何か、侮辱された気がする…」
「気のせい」
「………」
「で?」
問われて。
うーん、と考える。
多分、彼はまた、いつものように手伝ってくれるつもりなのかもしれないけど。
今回。
実は、彼の手を借りなくても平気かなーなんて。
思ってたりもしてて。
――あー、でも、一つあった。
「花椿せんせいに会うこと…ある?」
「どうして?」
「聞きたいことがあって。でも僕は、出来れば会いたくないから。君から聞いてほしいなと」
「……どうして?」
「会うと必ず、ブティックに引っ張り込まれそうになるから」
「………」
「生地、安くていいのが売ってるとこ、聞いておいてよ」
ポンッと肩を叩けば、彼は眉根を寄せて、黙り込んで。
わたしはただただ、お弁当を空にすべく、箸を動かしていく。
それに、深い深いため息が落とされたのは、そのあとで。
「俺もできれば…遠慮、したいんだけどな。あの人……」
小さく小さく、彼はそう綴ってくれた。
「そう言わずに、頼むよ、葉月くん」
笑みを込めて言っても。
彼はまだ、考え込んだまま。
「ネットとかでも、調べてみてはいるんだけどさー。どこもぱっとしないというか」
「………」
「いい生地はやっぱ高いんだよねー。でも気合い入れたいじゃん?
瑞希さんに、少しでも多く、喜んでもらいたいし」
「……知ってるのか? 花椿せんせい」
「知ってそうな気がする」
「…………」
「デザイナーだし」
「………」
予測だけで人を動かすことが。
相手にとって、どれだけ迷惑かっていうことは、知ってる。
知ってるけど、遠慮してなんか、いられないじゃん?
君と僕の仲なんだし?
「頼む、お願い、この通り!」
「…何度目だ? それ」
「……覚えてない」
「……………」
「ダメならいいです。自分でどうにかするから」
「買い出しには、付き合ってやる」
「…本当に苦手なんだ? 花椿せんせい」
「………」
顔を覗き込んでも、視線が逸らされるだけで。
答えは返らなくて。
代わりになぜか。
わたしは、彼に軽く、頭を叩かれた。
痛くはないんだけど、そこを抑えて。
「何で叩かれなきゃいけないのさ!」
「…煩い」
「………」
つまり、図星ってことね?
気づいて。
ふっと、笑みを零せば。
わたしの頭はまた。
彼の手によって、叩かれてしまいました。
…ちょっとさ。ヒドクない?
それから、三日もしないうちに。
三原くんから手渡されたものを見て。
わたしの笑みは、凍り付いてた。
三原くんの中の瑞希さんって、こういうイメージなんだ?
考えて、息を吐く。
「所々、変えていい?」
そう進言したら、三原くんは、快く、OKしてくれた。
そんなわけで、今日は買い出しにやってきたわけで。
お店の方は、尽にほんの少し、お小遣いを握らせたら、聞いてきてくれた。
「色は?」
「僕の瑞希さんのイメージって、赤なのね?」
「…ああ」
「でも、三原くんのイメージは、淡い青なのさ」
「……ああ」
「どうするべき?」
「……似合うんじゃないか? 青も…」
「じゃあ、そうする」
動きやすいようになのか、スカートの丈は短くて。
まぁ、移動、多そうだもんね? 瑞希さん。
考えながら、青い色の布を手前に引き出して。
淡くても、きちんと青だと確認できる色に決めた。
「創れるのか?」
「ん?」
「時間…平気か?」
「うーん…大丈夫だと思うよ? あんまり、細かいものとかなかったし」
「へぇー…」
「っていうかね? あんまり、女の子を意識したようなものじゃなかったの」
「………」
「瑞希さん、悲しんじゃうと思う?」
聞けば、彼は少しだけ考えて。
それから、「いや」と、首を横へと振った。
「?」
「目を背けたいかもしれないけど、きちんと現実は、見ておいた方がいい」
「…うん……」
彼の言葉に頷いて。
材料をそろえていく。
当日までには、きちんと間に合うから。
「出来上がったら、三原くんにも見せないとねー」
「いや。須藤自身が見せるだろ。きちんと着て」
「…そっか」
「それより……」
「ん? 何ー?」
「計ったのか?」
「何を?」
「須藤の……」
「服のサイズを聞いただけ」
「………」
「…ダメ?」
「だめだろ。普通」
「………」
いいと思うんだけどなー。
だって、聞いたらやっぱり、何のためかって聞かれるじゃない?
だからどうしても、聞けなくなっちゃうんだけど。
考えてると、彼がわたしの頭の上に手を置いた。
「時間、なくなるんじゃないのか?」
聞かれたことに、顔を見上げて。
合わさった視線に、笑みを零す。
「大丈夫だもーん。無理だなって思ったら、手伝ってくれる人がいるから」
「? 誰だ?」
「君」
「………」
「泣き付いたら手伝ってくれそう」
「…しない」
返答に、くすくす笑って。
わたしはゆっくりと、踵を返した。
瑞希さん、喜んでくれるといいな。
そんなことを考えながら。
わたしは布を、抱えてた。
END
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瑞希さんの誕生日。
難しかったです。
どうしようと、女の子は悩みますね、やはし。