その人にとって 今日という日は
やっぱり特別なんだと思う

だって
その人が生まれてきた
祝福すべき日でしょう?

この世界に形を持ってうまれてきたものに

無駄なものは一つとしてない

わたしはそう――信じているから




birthday vol.1





「お聞きしたいことがあります」
昼休みの体育館裏。
周りに猫たちがいる中で、わたしはそう、言葉を発した。
ひっきりなしに遊んでくれと言わんばかりに声を上げる子達を無視するのは心苦しかったから。
一匹を肩の上に乗せて
――というより、邪魔しないでいたら、乗っかられちゃったんだけど――
わたしは彼に向き直ったわけで。
急に堅苦しい言葉を使ったからだろうか。
彼は少し、驚いていたようだった。
でも、続きをきちんと促してくれて。
だからわたしも、口を開く。
「あのさ、男の子って、どういうものが好き?」
わずかに首を傾げてそう問う。
本人に聞けないからって、彼に聞くのも少しおかしい気もしたけど。
今は彼に聞くしか、方法がなくて。
「どうして?」
あーやっぱり気になるよなー。
思いながら、あのね、と口を開いた。
「その…もうすぐ、じゃない?」
「何が?」
「ニィやんの、誕生日…」
呟くように言えば。
予想通り、目の前の眉は中央へと寄せられて。
やっぱりこの人に聞くのは間違いだったかも!
なんて、深く後悔して。
――も、あとの祭りでしかないんだけど。
「いつも遊んでもらってるし。
しかもさ、去年、もらっちゃったんだよね、誕生日プレゼント。
まだ友達になってなかった時に、僕、誕生日迎えちゃってたのにもかかわらず。
もちろん、ニィやんの誕生日も過ぎててさ。
それでも返そうと思ったら、来年楽しみにしてるからそれでいいって言われちゃって。
だからはっきり言って、気合入れなきゃいけないわけよ!
だから、協力してください!!」
胸の前。
手を合わせて、お願いしてみる。
でもやっぱり、予想通りの反応で。
彼はふいっとわたしから顔を背けてくれた。
一番小さな子猫を抱き上げた彼の腕に縋って、なおもわたしは口を開く。
「お願い、頼む! 何でもするから!」
「………」
「一週間、毎日お弁当作ってきてあげてもいいよ? 購買行くの、面倒臭いでしょ?」
「そんなでもない」
「いつも面倒臭いって言ってるじゃん! んじゃ、この子達のご飯、用意するとか」
「こいつら野良だから、基本的に。餌ぐらい、自分たちでどうにかするだろ?」
「そう言いながら、毎日ここに顔出してんじゃん! 知ってるんだからね?」
「煩い」
「煩くない!」
「少しは黙れ」
「君が協力するって言ってくれるなら黙ってあげよう」
「………」
「簡単でしょう? 君の意見でいいんだから、言ってよ!」
「…嫌だ」
「………」
小さく舌打ちをして、手を離す。
ここまで来ると何を言っても無駄だ。
それは万人に共通することだと思う。
というより、無理強いはしたくないって言うか。
和馬に聞くかなー?
膝を軽く抱えて。
そこへと視線を落としながら、考える。
和馬、ニィやんと仲いいし。
それとも、それとなく聞き出してみる?
無理だな。
ニィやん、何気に鋭いんだもん。
何より、自分から誕生日触れ回ってるし。
投げた会話が、すべてそっち方面として取られる可能性が、今はなくもなかったりして。
はぁ。
ため息を吐く。
どうにもならない、はっきり言って。
耳には猫たちの声。
彼の視線が、ちらちらとわたしに向けられているのはわかったけど、あえて無視。
黙ってほしいって言ってたんだから、望みは叶ってるはずだしね。
………。
ヤバイ、本気でわからなくなってきた。
と思ったら、立ててた膝に、猫の足が乗った。
肩に乗ってた子の、右前足。
何だろうって思って顔を上げたら。
にゃーって声を掛けられた。
だから同じように、にゃーって返す。
嬉しそうに笑ってくれて。
何か嬉しくて、わたしも笑った。
……ら、頭上から笑い声。
「何?」
「べつに。何でもない」
「その顔は何でもなくない。それとも僕には言えないこと? 僕のことなのに」
グリーンの瞳がわたしを見て。
睨むようにその顔を見てたら、また笑われた。
ふって、笑顔。
「表情だけで語らないように。僕はそこまで、君のことはまだ理解出来ておりません」
「じゃあ言わない」
「はぁ?」
返せば、今度こそ本当に声で笑われて。
それに小さく頬を膨らませた。
彼は何事もなかったかのように、膝の上の子猫の背を撫でていて。
けれど、ポツリと言葉を紡いでくれた。
「おまえはどうなんだ?」
「何が?」
「誕生日プレゼント。どんなものが欲しい?」
「…急に言われても出ない」
「好きなものは?」
「好きなもの? 綺麗なもの」
「………」
「え? ダメ? ほかには…猫、花、お菓子、アクセ……」
「そういったものに関連するものなら?」
「喜んでもらう」
「そういうものにすればいいだろ? 姫条のも」
「………」
無言で手を打つ。
なるほどねー。
さすが、学年首席だけはあるわ。
なんて心の中で感心して。
それでも、ありがとうと返した。
――んだけど。
「じゃ、明日から一週間、頼むな」
「はい?」
「弁当と、こいつらの餌」
にやりと笑われて。
タイミングよく、肩の上の子が声を上げて。
わたしは苦笑しか零せなかった。




洗い物をしながら、ボーッと考える。
透明のコップばかりが並ぶそこに、洗い終えたものを置いて、わたしは短く息を吐いた。
その時、わたしの耳が笑い声を拾う。
目を上げると、店長が目の前に座っていた。
「店長……」
「考え事?」
「…はい」
「葉月くん?」
「違います。友達の誕生日が近いんで、何をプレゼントしようかなーと」
「大体は決まってるの?」
「まぁ……。何でです?」
水を止めてそう聞けば、店長は椅子から立ち上がって。
それから、壁の時計を仰ぎ見た。
倣うようにして、わたしも見る。
もうすぐ休憩かな?
思っていると、出入り口の扉が開いた。
いらっしゃいませ、と言葉を紡ごうとした口は、店長の手によって遮られて。
理由はまぁ、来たお客さんを見れば、一目瞭然だったけど。
「玲ちゃん、休憩入っていいよ」
「はい」
カウンターから出る前に、コーヒーを二杯分煎れて。
ソーサーの上に置いたあとで、それを持って、そこから出た。
カチャッと置いたのは、ついさっきやってきたお客様の目の前。
「そっちも休憩?」
「じゃなきゃ、来られないだろ?」
「そうなんだけど」
椅子を引いて、腰掛けて。
頬杖を突いたあとで、ふうと吐息。
「どうした?」
「何か食べるんなら、注文しなよ?」
「? ああ。…で?」
うーん、と考えて。
「ニィやん、バイク持ってるんだよね。だからそれ関係にしようとは思うんだけど」
言葉を紡げば、もう慣れたのか。
彼は短く、そうかと発してくれた。
「ただねー、自分が持ってるバイクにしか興味はないって感じでさ。
だから下手なものはあげられないんだよね」
「大変だな」
「そ。バイクなら何でもいいってわけじゃないんだよね。君は結構わかりやすいんだけど」
「わかりやすい?」
「猫モノなら、結構何でもよさそう。でもま、欲しいものがあったら、先に言ってくれるとありがたい」
「………」
「ウケ狙いでもいいんだろうけど、去年のことがあるからなー。本当にどうしよう」
「何もらったんだ?」
「去年?」
「ああ」
「ラジオ。アンティークの」
「へぇ…」
「今度見せたげようか? 趣味いいよ?
ああいうの好きなのかな?
まぁ、好きじゃなかったら買わないだろうけど」
「そういうのは?」
「真似するのは、あんまり好きじゃない…」
「わがまま」
「煩い」
会話しながら、ミルクと砂糖を入れて。
スプーンで、ただくるくると回していたそれを、そこで一口含んだ。
彼はいつものヤツを注文して。
そのあとで、わたしと同じようにカップを傾けていた。
「使えるものがいいとは思うんだ。そうなると、アンティーク物のがいいんだけど」
「でも、真似はしたくないんだろ?」
「そう。どうすべき?」
「俺に聞くな」
「優しくない」
「おまえに優しくしようと思ってない」
「やっぱヒドイ」
頬を膨らませて。
それから、はぁ、と。
もう一度ため息を吐いた。
カップを持ち上げると、目の前にすっと真っ白なお皿が差し出されて。
「お待ちどうさまでした」
と、店長自ら、彼が頼んだものを運んできた。
同時に、小さなお皿をわたしの目の前に置く。
見たことのない料理が、そこには乗っていた。
「?」
「新作。とりあえず、食べて感想言ってね」
それだけ零して、店長は去っていく。
初めてのことじゃないから、わたしはじっとそれを見つめてた。
「またか?」
「そのようで。何で僕のとこに持ってくるんだろうね?」
「おまえ、はっきりしてるからな」
「…ですか?」
「ああ」
「ふぅーん…」
思いながら、一口含む。
…辛いものダメって、わたしちょっと前に言ったよね?
まだ熱さの残るコーヒーをぐっと煽って。
わたしは急いで立ち上がった。
そのまま、冷蔵庫へと走って。
ジュースをコップに入れて、口に含みながら席へと戻る。
行儀悪いとか、そんなこと……思ったけど。
どうしようもなかったから、それをしてた。
「ダメ?」
問われて。
「ダメです」
短く答える。
視線を移せば、彼は笑ってた。
それに小さく睨めば、彼は「悪い」と小さく紡いでくれて。
だけじゃなく、お皿を交換してくれた。
もちろん、ツナサンドは半分、持っていかれたけど。
「ありがと」
「いや。そんな気はしたから」
「…気づいてたんだ?」
「まぁな」
難なく口へと運ぶ彼を見ながら、頬を膨らませる。
「どうしてダメなんだ?」
「ただ辛いだけのようにしか思えないから」
「子供だな」
「それは認めるけど、君に言われたくありません」
不意にもらってしまったツナサンドを頬張って。
結構おいしいよね、なんて思いながらも、まだわたしの頭は、プレゼントのことを考えていた。
バイク関係で毎日使えるものってあると思う?
日常、必ず使うようなもの。
考えて、やっぱり思い付かなくて。
わたしは腕を組んだ。
「まだ考えてるのか?」
「だぁってぇー」
「無理なら二つ用意すればいいだろ? べつに一つって決まってるわけじゃない」
「………」
「どうした?」
「思い付かなかった」
「ばか」
ふっと笑われて。
別に呆れているんじゃないってわかったけど。
それでも、どうせバカですよ、なんて答えた。
一つって決まってるわけじゃない。
確かにそうだ。
それなら、あれとあれで決まりだ。
考え付いて、嬉しくて。
「明日のお昼は楽しみにしてていいよ」
笑顔で紡いで、最後の一欠けらを、わたしは胃へと収めた。






足元で猫たちが騒いでいて。
わたしは急いで、それを五等分して。
そのうちの三つを子猫の前に一つずつ置いて、二つ分を一緒にして、母猫の前へと置いた。
と言っても、彼がかなり気にかけている子猫の分だけは、わたしのそばへと置いて。
様子を見ながら――気にしながら――食べさせていた。
彼曰く、この子は食べるのが遅いらしい。
だからほかの兄弟に取られちゃうんだって言ってた。
腰を下ろして、伸ばした両足の上に、二つ分のお弁当箱を乗せて。
わたしは彼を待つ。
授業が延びてるのか、まだ夢の中なのかはわからないけれど。
「ゆっくりでいいよ。焦らなくて大丈夫だから」
午後の授業。
サボってもいいか、なんて考えてしまって。
天気のいい青空を見上げたりした。
梅雨はどこへ行ったんだかわからないぐらいに晴れている空に。
やっぱりこういう日はサボるに限るのかなーなんて、思ったりもして。
「でもさ、やっぱりひとりじゃつまらないよね?」
「何が?」
零せば、すぐそばで切り返された。
視界に入ったその色に、笑みが浮かぶ。
「遅かったね?」
「まぁな」
「はいこれ。お約束の物」
「ああ」
大きい方を上へと上げて、手渡して。
「で、何が?」
未だに聞いてくる彼に、小さく吹き出してみたりした。
「田端」
「ああ、ごめんね? 君、諦めるってこと、知らないでしょう?」
「………」
「いや、全然いいんだけどね?」
笑いを収めて、隣りに座ってくる彼を待つ。
隣りから声が上がって、わたしはそっちへと視線を移して。
ようやく半分が減ったそこを見て、小さな頭を一つ、撫でた。
「えーと、まずはお礼。
葉月くんが協力してくれたおかげで、ニィやんはかなり喜んでおりました。
ありがとうございました」
「そうか」
「うん。でね、さっきの独り言だけど。
今日、久々に晴れたじゃん?
だから、このままサボってもいいのかなーなんて」
「光合成?」
「僕は植物ですか? まぁいいけど。でまぁ、ひとりじゃ寂しいなーなんて」
「で?」
「………」
ちらっと瞳を動かして。
彼の顔を見れば、わたしをそのグリーンの瞳に映していて。
わかってるけど、言ってやらない、みたいな。
そんな、意地の悪い笑みが、そこにはあって。
「共犯者になる気、ない?」
だからわたしも、遠まわしに言葉を紡いだ。
「べつに、かまわない」
「じゃ、二人でサボろう。……よかった」
小さく小さく発して、お弁当の蓋を開けた。

今日という日を、必ず誰かは祝っていて。
自分で気づかなくても、祝ってくれている人は、どこかに必ず、いるはずで。
「すぐに僕の誕生日だよ? 覚えてた?」
「覚えてた」
その日が来ることを待っている人も、きっとどこかにはいるはずで。
「そしたら守村くんで、瑞希さん」
「よく覚えてるな?」
だって、その人が生まれてきた日だもん。
生まれてきてくれなかったら、こうして笑って話すこともできないわけで。
「友達だしね」
だから、感謝の意を込めて、プレゼントする。
それって、
「あったりまえじゃん? やっぱり」
誕生日って特別で。
来なくていいって言う人もいるけど。
とりあえずわたしだけは、笑顔でおめでとうを言おうって。
そう――決めていたりするのです。

END

 

優菜ちゃんの方で思い付かなかったので、玲の方で書いてみたりして。
ニィやんは好きです。
普通に友達に欲しい…。

さて次は守村くんか!
(この前にタマちゃんがあったんだけど、書けなかったから、男の子たちだけになると思う、きっと…)

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