いつも、たったひとりでやっていること。
なのに、今日は違う。

今日は。
ひとりじゃない。



bergenia stracheyi




「あれ?
葉月くん?」
かけられた声が、聞き慣れたものだったことに。
彼はそこから、視線を上げた。
制服から私服へと、まとっているものを変えた彼を見ているのは。
彼が思った通りの人物で。
「東雲……」
彼女の名を呼んで、彼はわずかに、目を細める。
彼女もまた、制服から私服へと、それを変えていて。
驚いたような表情を見せていた彼女は。
ふっと、その顔に笑みを浮かべた。
「そっか。葉月くん、一人暮らしだもんね?」
「?
ああ…」
「お買い物も、自分でするよね?」
「……できるやつ、いないだろ?」
「うん。そうなんだけど」
初めて会ったから。
嬉しそうに言って、彼女は、彼が持っていたものへと、視線を移す。
それから。
「今日は…お刺し身?」
「…ああ。簡単だし」
「そうだけど……。野菜もちゃんと食べないとダメだよ?
栄養、偏っちゃうし」
「……ああ」
「とか言って、野菜の方に戻る気、ないでしょう?」
「…家に…あるから」
「本当に?」
「……本当」
視線を逸らして答えれば、彼女はくすくすと笑い出して。
それに、彼は少しだけ、むっとしたような表情を浮かべた。
うそは言っていない。
確かに、家には。
野菜はあって。
ただそれを、今日食べるかどうかと聞かれれば、わからないけれど。
「…おまえは?」
「?
何が?」
「買い物。いつもしてるわけじゃ…ないんだろ?」
「うん。お母さんが、買うの忘れちゃったから、買ってきてって頼まれたの」
「……そうか」
「うん」
「じゃあ……早く帰らないとまずいんじゃないか?」
「ううん。今日は使わないから。明日、必要なんだって。でも、明日は、お母さん、用事があるから、買い物に行けないんだって」
「…そうか」
「うん。それに、わたしも、バイトあるから……」
綴って、彼女は微笑を零す。
ほんの少し、苦いものを宿しているようなそれに。
彼はわずかに、眉根を寄せて。
けれど、彼女はそれに気づかずに、言葉を繋げていく。
「でも、あんまりそばにいちゃ、悪いよね?
ごめんね?」
そういうことかと、その言葉に合点が行って。
彼は小さく、ため息を吐いた。
たぶん。
早く帰った方が、と、言ったから。
だから彼女は、じゃまなんだと思った。
そばにいて。
こうして話していることが、わずらわしいのだと。
そんなことは――ないのに。
「じゃ、葉月くん。わたし、こっちだから……」
「一緒に行く」
「え?」
「だからおまえも、つきあってくれ」
完全に、彼女が背を向けてしまう前に、彼はそう綴って。
彼女とはべつの方向に、一歩を踏み出す。
少しだけ歩いて。
ついてこないことに、振り返れば。
彼女はまだ、そこにいて。
い続けていて。
「…東雲?」
「あ!
ご、ごめんね?」
名を呼べば、彼女は慌てて、そばへとやってくる。
それに、小さく笑みを浮かべれば。
彼女からはもう一度、「ごめんね?」という言葉が、届けられた。

END

 

一人暮らしだし。
やっぱり自分で買い物、行くのかなーとか思ったら、書きたくなったお話。
お手伝いさんとか、いるような気もしますけど。
それだと、何だか、彼らしくないなーと思うんですが…(どうでしょう?)。

題名は、とある花の学名です。
そのままはちょっと、笑っちゃったから(苦笑)。
しかし……短いなぁ…。

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