考えるのはいつも、あなたのこと。
あなたの笑顔を見るために。
毎日毎日、がんばってる。



明日のために




約束の時間が、まだ先なのを、彼女は振り返って、確認する。
壁掛けの時計が指している時間は
9時過ぎで。
それを見て、彼女は一度、「よしっ」なんて、声を上げた。
背中に刺さるのは、母親の視線で。
気にしないようにと思っても、どうしても気になってしまう。
「…なぁに?」
「べつに?」
「………」
「ただ、何するのかなーって」
にっこりと浮かべられた笑みに、少しだけ、睨むように視線に力を込めて。
それでも変わらない表情に、彼女はシンクへと、視線の先を変える。
「お弁当、作るの」
「ふぅーん」
「……なぁに?」
曖昧な返事に、彼女はまた、振り返って。
頬杖を突いて、彼女を見続けている母親の姿を、視界の中に置いた。
「この頃、練習してたじゃない? だから、とうとう本番なのかなーって」
「………」
「何作るの?」
「何だっていいでしょう?」
「手伝いましょうか?」
「…大丈夫」
くすくすと笑う声に、小さく頬を膨らませて。
それから、今度こそ、という気持ちで、シンクへと向き直る。
何度も練習して。
何度も、家族に味見してもらって。
だからと言って――彼の好きな味ではないかもしれないけれど。
それでも、自信を持つことが、何よりもまず、大事だから。
大切だから。
「慌てなければ大丈夫よ。優菜は」
「うん」
「あと、手順を間違えないようにね」
「うん」
注意を聞いて。
揃えた材料へと、手を伸ばす。
ほめてくれなくても、べつにいいから。
ほんの少しだけでも、笑ってくれたら。
ほんの少しだけでも、いつもと違う表情を、見せてくれたら。
そんなことを、考えながら。
「優菜」
「なぁに?」
「私にも作って」
「二人分しか買ってきてないもん」
「そこを何とか」
「だーめ」
笑いながら会話して。
そうしながら、彼のことを考えて。
手を動かして。
「お父さんのお弁当箱、借りていい?」
「…やっぱり、男の子に作ってたんだ?」
「……そうだけど…」
「ふぅーん…?」
「………」
「引き出しに入ってるから。もっと大きいのもあるけど?」
「…大丈夫だと思う……けど」
「高校生なんて、食べ盛りじゃない。本当にいいの?」
「……あんまりたくさん、食べてるの、見たことないから…」
「じゃあ、大丈夫かしらね」
考えて、思い出して。
それでも、不安で。
でも、たくさん作ってしまって、彼に無理はさせたくないから。
考えて。
考えて。
「まだ時間、あるんでしょう?」
「え? う、うん…」
「じゃあ、簡単にデザート、作っていけば? まだ物足りなそうだったら、出してあげなさい」
「うん!」
提案に頷いて。
彼女は弁当箱にできあがっていたものを詰めていく。
デザートは何がいいかな?
次にやることを考えて。
「あまったら、残しといてね?」
「あまらないってば」
しつこく言ってくる母親を、軽くあしらい続けていた。
早く時間が来るように。
早く、彼に会えるように。
時計を何度も振り返り続けて。

END

 

で、このあとは、あのかいわれくんのイベント(笑)。
主人公ちゃん視点のSSも増やしたいなーと。
珪くん、出てこないような(苦笑)。

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