陽射しとか、たくさんの花々とか。
この季節を感じられる場面は。
たくさん…なんだね?彼女の言葉に、こくんと頷いた。
足音
その声に、彼は顔を上げて。
小さく、微笑を零す。
思えば、今この瞬間。
そう。
今になって。
彼は今が春であるということに、気づいたのかもしれない。
空を見上げて。
春特有の強い風に、髪を揺らして。
また、微笑を零して。
「どうしたの?」
隣りからの声には、べつの笑みを浮かべて。
彼は視線を下げる。
「実感…してた」
「? 何を?」
「春」
「あー、あったかいよね? 陽射しとか」
「…ああ」
にこにことした顔で話す彼女に、彼も同じ気持ちを抱きながら。
同じように、空を見上げる。
「桜はもう、散っちゃったけど。菜の花が綺麗に咲いてたし」
「咲いてたな、そういえば」
「うん」
にっこりと笑う彼女に、また彼は笑って。
今、話に出された、黄色い花を思い出す。
朝、登校の時に見たそれは。
風に、わずかに花びらを舞わせながらも、そこにあり続けていて。
「珪くんは?」
急に問われて、彼は瞬きを数回。
何が? と、問い返せば。
「珪くんは、何で春だなって、思ったの?」
そう、言い直されて。
彼は小さく、ああ、と声を落とす。
見上げた先は、雲はあるけれど、青くて。
陽射しは柔らかくて。
風は強いけれど、寒くはなくて。
それから――。
「声。鳥の」
「鳥?」
「ああ」
よくよく見れば、そばの樹には、スズメがいて。
言葉を発しなければ、それは小さく、鳴いて。
声を発して。
短いけれど、歌を歌って。
「…何て言ったらいいか……」
「のんびり、してる?」
「ああ。ゆっくり、なんだよな。時間の流れが」
「そうだね」
彼女がまぶたを閉じたのに倣って、彼もまぶたを下ろす。
身体に降り注ぐ光は、あたたかくて。
風の強さも、あまり気にならなくなって。
そして、耳に届くのは。
辺りに響いて、少し大きくも聞こえる、その歌だけで。
まぶたを上げて、彼女を見れば。
彼女もまた、笑ってくれた。
END
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