この霧が晴れたそこに。
おまえがいてくれたら…いいのに。なんて。
歩きながら、考えてた。
朝霧
起きて、直後。
彼はその寒さに、眉根を寄せた。
昨日よりも、寒いと感じる、朝。
むくりと身体を起こせば、それは如実に、彼の身体を蝕んでいって。
その理由を知るために。
窓を覆うカーテンへと、彼は手を伸ばした。
真っ白いカーテンを引けば、そこは。
50メートル先を見ることもできないようになっていて。
「…寒いはず……だな」
窓の外の景色を眺め見て、彼はポツリと零す。
そうして、少しの間、見続けていたけれど。
時間が迫っていることに気づいて。
彼はベッドから降りた。
霧で、制服が濡れてしまわないか、気にしながら、彼は歩く。
いつ、彼女の姿が見えてもいいように、周りにも気を使って。
けれど。
彼女の姿は、見えないまま。
一番会いたい人の姿は、どこにもなくて。
彼はアスファルトへと視線を落とした。
足音はいくつも聞こえるのに。
声だって、いくつも耳に、届くのに。
誰のものかもわからない姿の一部も、彼には見えているのに。
彼のそばには、誰もいないまま。
瞼をゆっくりと、閉じると同時。
進んでいた足は、力を失って、立ち止まろうとする。
けれどそれは。
「珪くん!」
その声に、途端に力を取り戻していた。
「…優菜」
「おはよう。やっと見つけられた」
きゅっと、袖口を掴む彼女の足は止まっていて。
それで、彼も足を止めていたのだと、知って。
「…そうか」
「霧、すごいでしょう? だから、早めに歩いてたんだ。珪くん、このごろ、わたしよりも前にいることが多いから」
「……ああ」
言われて。
そう言えばこのごろは、彼女に声をかけられることが多かった。
なんて、思い出す。
彼女の手を取って。
ゆっくりと、歩き出して。
「疲れてないか?」
「? どうして?」
「早目に歩いてきたって、言ったから。おまえ」
「大丈夫」
にっこりと微笑んだ彼女に、彼も笑みを零した。
彼女がいるだけで、この霧はべつのものに摩り替わる。
彼に強く、ひとりだと思わせていたのに。
今は。
彼女と、たった二人きりなのだと、思わせてくれる。
霧が、周りを遮断してくれているから。
声も、足音も聞こえるけれど。
気配も、そこにはあるけれど。
白い幕が、それを遮断してくれているから。
こっちから向こうが見えないのなら。
向こうからこっちも、見えないはずだから。
「なぁ」
「? なぁに?」
「……何でもない」
「?」
首を傾げた彼女に、微苦笑を落として。
彼は前方へと、目を向ける。
学校に着かなければ…なんて、考えてしまったこと。
それを、告げたら、どうなっていたかなんて、彼にはわからないけれど。
それでも。
彼女と二人なら、怖くないと。
彼は深く、思っていた。
END
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