どんな場所でもいいの

あなたがそこに いるなら
あなたがそばに いてくれるなら

どこだっていいの
どこにだって 行くの

あなたがそばで
笑っていて くれるなら



あなたがそこに いるのなら




明日。
考えながら、わたしは静かに、窓の外を見ていた。
空では、太陽が主役を張っているけれど。
この家の中では、それは絵空事みたいなものになっている。
クーラーがものすごくよく効いてて。
でも、もちろん、そんなに低い気温に、設定してはいないけれど。
それでも、暑いとは感じられない。
「どうした?」
声に振り返れば、彼がグラスを差し出してくれていて。
わたしはそれを、受け取りながら、彼へと身体を向きあわせた。
「外、暑そうだなーって」
「…そうだな」
窓の外。
空を見上げながら、彼は言って。
それから、わたしのそばへと、腰かけてくれた。
首を傾げれば、彼は笑って。
「それだけ?」
なんて、問いかけ。
「明日、登校日だなーって」
「…そうだったか?」
「そうなの!」
少し頬を膨らませれば、彼はくすくすと笑って。
「知ってる」
と、短く紡いだ。
明日も、彼に会える。
それがとても、嬉しくて。
でも同時に、心配。
「明日も暑いのかな?」
「……たぶん」
「そっか……」
ここから。
彼の家である、ここから、学校まで。
けっこう、距離があるから。
だから、心配になる。
「大丈夫だったか? ここまで」
ストローを手にすれば。
彼はそう、聞いてきて。
わたしはうん、と頷いた。
少し、暑かったけど。
だから、彼の言う通り、ここにいる。
ネットで、今日から水族館で、イベントがあることを知って。
彼に電話をして。
暇なら、行かない?
って、誘って。
いつも迎えに来てもらってるから、今日はわたしが行くね?
って、そう言って、ここに来た。
でも、外はすごく暑くて。
ぼうしをかぶってきたのに、意味なんて、あまりなくて。
開けられた玄関から漏れ出てきた、冷たい空気に。
つい、涼しい、なんて、言ってしまった。
それで彼は、外がどれだけ暑いのか、わかったのかもしれなくて。
促されるままに、家の中へと上がってしまった。
少しの休憩のつもりだったのに。
彼は外へ出る用意をしているような、そんな感じでは、なくて。
でも、それでもいいかなと、今は思ってしまっているのが、現状。
「…珪くん」
「ん? どうした?」
「行くの、やめようか?」
問えば、彼はまた、窓の外へと視線を向けて。
少し、考えているようで。
「珪くん?」
名前を呼んで、促してみたら。
彼はわたしの顔を、ちらっと見る。
「どうしたの?」
「さっき…おまえの手に、触れた時」
「え? う、うん」
彼の顔を見ながら、右手を小さく、軽く握る。
通されたのはリビングで。
そこまで彼は、わたしの手を引いてくれた。
何か…あったのかな?
握って、感触を確かめて。
そうしていれば、彼の瞳はまた、窓の外へと、注がれて。
「…熱かったんだ、すごく」
そう、零した。
「そう?」
「ああ。まだ赤い。この辺も」
ふわりと、彼の手が触れたのは、わたしの頬で。
それにわたしはびっくりして、彼から視線を外す。
赤いのはもしかしたら、暑さだけのせいではないのかもしれない、とか。
そう考えてしまったのは、きっと、仕方のないことで。
「だから、涼しくなってから」
「それじゃ、終わっちゃうよ」
「…じゃあ、また、べつの日に」
落として、彼はグラスを傾けた。
「セミ、いっぱい鳴いてたよ」
「…だろうな」
「うん。この鳴き声、何だったっけ? とか、考えながら来たの」
「そうか」
「うん」
でもやっぱり、暑くて。
そこまで言って、口を閉ざす。
彼がここにいてくれて、よかった。
待っててくれると、そう言ってはいたけれど。
辿り着くまで。
彼の顔を見るまで。
不安だった。
「明日、寝坊しないようにね?」
届けてみたら、彼からは「努力する」って。
そんな言葉を、届けてくれて。
わたしはそれに、涼しいといいね、と。
希望にも似た言葉を、返してみた。

END

 

20050812のイベントで配っていたペーパーに載せていました。
登校日よりも、セミの方の話をしてほしかったんですが。
ちょっと無理でした…。

戻る