あのね?
本当かどうかは、わからないけど。本当なら…って。
縋りたくなっちゃったの。
甘いうわさ
聞いたのは、昨日。
友達と話していて。
その中で、聞いたうわさ。
信憑性は、ないけれど。
実行して、想いを叶えた人がいるのなら、自分もあやかりたい。
それが、彼女の本音で。
そして、こうして実行している自分も、どうかとは思う。
そんなことを考えながらも。
だって…なんて、自分に言い訳してしまうのは、仕方がなくて。
想いを込めたいから、彼が来る時間に間に合うように、作って。
「アップルパイか」
彼の家で、何を持ってきたのかと聞かれたから。
彼女はそれを、彼の目の前へと、差し出した。
「何となく、食べたくなって」
そう、うその理由を告げて。
小さな皿を持ってきてもらって、彼の部屋で、切り分けて。
教えてもらった――うわさは。
好きな人に、アップルパイをあげると。
両想いになれるとか。
そういう、もので。
だから、一緒に食べるのは、ダメなのかもしれない。
そんなことも、思ったけれど。
それでも。
彼が先に食べてくれれば、大丈夫だよね?
そんなことを、考えて。
今こうして、それぞれの皿の上へと、彼女は置く。
腰を落ち着けて。
息を吐いて。
彼を見れば。
小さく、いただきます、なんて、言葉を綴っていた。
笑みを浮かべて、それが口へと運ばれるのを、見ていれば。
恥ずかしいのか、彼はふいっと、横を向いてしまって。
「珪くん?」
名を呼んだのと、ほぼ同時。
小さな欠片は、彼の口の中へと、放り込まれる。
「甘い…かな?」
「……大丈夫」
「本当?」
「ああ。美味いよ」
「よかった」
安堵の息を零して。
フォークを手にすれば。
それは目の前に、差し出されて。
「?」
「口開けろ」
「え? でも、わたしの……」
「いいから」
自分の分は、ちゃんとここにある。
そう、届けようとしたのに。
それは、彼の手によって、そこにあり続けていて。
困りながらも、おずおずと口を開けて。
パイの欠片を、口に含む。
フォークが引き抜かれて。
口の中の甘さに、嬉しくなりながらも。
やっぱり、困惑してしまって。
これって…どういうことに、なるのかな?
考えて、考えて。
口元に、手を当てれば。
「どうした?」
そう、間を置かずに、心配そうな声が飛んできて。
彼女は首を横へと振る。
想いが返された…ってことに、なるのかな?
それでも、そう考えてしまって。
悲しくて。
けれど。
「なぁ」
「! なぁに?」
「知ってるか? これのうわさ…」
「うわさ? どんな?」
「………」
「珪くん?」
「……何でもない」
ドキドキしながら、答えを待てば。
彼からの返答はなくて。
彼女は首を傾げる。
同じ、ものなら。
もし、同じものなら。
彼は彼女に、パイをあげたということに、なるのかもしれなくて。
「………」
考えて。
もっと、ドキドキして。
ちらりと、彼を見て。
彼も、彼女へと視線を向けてくれて。
そうだったらいいな。
思って。
彼女はにっこりと、笑みを浮かべていた。
END
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