| 俺は あんまり好きじゃなかったけど 彼女のその行動を見て
少しだけ
好きになった
Zigarette
「?」
目の前で首を傾げられて、俺は視線を逸らす。
この場所は、結構好きな場所の一つなのに。
それは、まぁ――彼女がいるからかもしれないけれど。
それでも、この場所は結構好きで。
なのに。
これからこの場所に来るだろう人物は、あまり好きじゃない。
「葉月くん。眉根寄ってる」
「…知ってる」
「……嫌なことでもあった?」
「……いや?」
「これからあったりする?」
「……する」
答えれば、大きく目を見開いて。
そのあと、彼女はくすくすと笑い出した。
「実は、君のマネージャーさんから聞いてた」
「………」
「ヘビースモーカーのカメラマンさんと打ち合わせなんだって?」
「……ああ」
答えて。
まだ笑う彼女を見る。
と、彼女はテーブルを拭いていたその手を止めて。
俺へと、視線を上げてくれた。
「煙草、嫌い?」
「…好きじゃない」
「そっか。ま、身体には悪いもんね。それに苦いらしいし」
「………」
綴って、彼女はまた、手を動かしはじめる。
「食べ終わったんなら、持ってっちゃうよん」
言いながら、食器をまとめて、カウンターの中へと歩いて。
それに合わせて、俺も、いすを回転させた。
「聞いていい?」
「?」
「何で君、今日に限って、カウンター席なんかに座ってるのさ?」
「………」
問われて、黙り込む。
このごろ、彼女はほとんど、カウンターの中にいて。
料理とか、飲み物とか。
そういう物を作っていたりするから。
だから…ここに座っていれば。
彼女が何かと、助けてくれるかもしれない。
そんなことを考えたから、俺は今日、この席を選んだ。
――なんて、素直に言えるはずもなくて。
なのに彼女は、くすくすとまた笑って。
皿をシンクへと下ろした。
「どうせ君のことだから、聞いても、右から左でしょ?」
「だから…」
「ん?」
「だから……気になるんだろ?」
「………」
彼女は黙り込んで。
うーん、なんて唸って。
「そういうもん?」
なんて聞いてくる。
それに、こくんと頷いても。
彼女はまだ、考え込んでいて。
――店内からは、ゆっくりと、人の姿はなくなっていく。
時計を見れば、俺の休憩時間はあとわずかで。
それが終わったと同時ぐらいに現れるんだろう人物の姿を思い出して。
俺は大きく、息を吐き出した。
来て早々、出された箱に、俺は深く眉根を寄せたけど。
それに気づいたのは、彼女だけで。
俺のほぼ目の前で、小さく笑ってた。
ポケットから出されたライターに反応して。
すっと、灰皿をそいつのそばへと置いて。
「えーと…、どの程度まで、聞いてる?」
その言葉を、彼女も聞いてくれたけれど。
「さわりだけ……」
答えなくちゃならないのは、俺。
マネージャーがやってきたのは、そのあとで。
その人はたばこに火を付ける。
先端が赤い炎を宿して。
燃えて。
それを口から離した瞬間。
やっぱり、視界には煙が舞った。
それにまた、深く眉根を寄せる。
「今回、企画ものでねー…」
くわしい話を聞くのは、マネージャーに任せて。
俺はただただ、眉根を寄せているだけ。
俺がここで、何を言おうが。
もう、決定事項なのだから。
聞き入れてもらえるはずがない。
そんなことをしていたら。
不意に、彼女が視界の端で、動いていた。
小さく。
小さく。
そんな彼女に、焦点を合わせても。
彼女はじっと、煙を見ているだけで。
かと思えば。
軽く固めた手で、煙に触れていた。
「田端?」
「ん? 何ー?」
「嫌いなのか?」
「へ? 何が?」
手は落ちることはなくて。
形でさえ、そのままで。
「来週から、そういうことで進めてくから」
話は一旦、切られていたらしい。
俺へと届けられた言葉に、またそのカメラマンに視線を戻す。
聞いてはいなかったけれど、頷くほかはなかったから。
俺はそうして。
それからまた、吐き出された煙に。
彼女を見た。
自分の方へと向かってくる煙に、また彼女は、軽く固めた手で触れていて。
こまねくように、その手は動いて。
「………」
終わったのか、カメラマンは席を立つ。
俺の隣りの席は、空っぽになって。
その瞬間。
俺は吹き出してた。
「な、何?」
「た、田端」
「だから何!?」
「じゃれるなよ」
「!」
笑いながら告げれば。
彼女は大きく目を見開いて。
その目で、自分の手を見て。
それからパッと、赤い顔をして、目の前の煙を、払う。
「気づいてなかったのか?」
「………」
「……田端?」
「…煙が、目の前で動いてて……、気になって……」
「なって?」
「…そしたら……手がね…?」
「………」
「………」
「…猫」
「!」
届けて、また笑う。
彼女は頬を膨らませて。
「あんまり笑わないでくれる…?」
そんな風に、呟いてた。
けど。
笑いを止めなかった俺に。
やっぱり彼女は、頭を一発、叩いてくれた。
END
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