何となく、予想はしていたのだけれど。
その通りになればいいな、と思ったりもしていたけれど。
本当にそうなるなんて、思っても見なかった。
Flower 2
お昼過ぎに、チャイムが鳴って。
彼は特に不審感は抱かずに、玄関のそのドアを開けた。
そこにいたのは見慣れた姉弟の姿。
「よ、葉月」
「珪くん、おはよう…って言うのも、何か変だね?」
「だな」
けど、おはよう。
加えれば、彼女はにっこりと嬉しそうに笑ってくれて。
その弟はその様子に、軽く肩を落としていたけれど。
微笑していたから、彼もふっと笑みを上らせた。
「で?」
「あ、そうそう。誕生日プレゼントを届けに来たんだよ」
そう、尽は言ったけれど。
その手には何も持ってはいなくて。
彼は軽く、首を傾げる。
「プレゼント?」
「そ。当日に渡しても意味ないからさ」
「?」
「あ、夜にはきちんと返せよ?」
「返す?」
「尽、何も持ってきてないのに…?」
姉の言葉ににやっと笑って、尽は彼女の後ろへと回る。
それから。
「ちょ…! 尽!?」
彼女の背中を押して、彼の家へと半ば無理矢理押し込んだ。
そのあと、彼の手で支えられていた扉のノブに、手をかけて。
「ちゃんと返せよ!」
言って、いたずらっぽく笑った、尽の姿は。
バタン、という大きな音と共に、消える。
扉の向こうにいることはわかっているから、扉を開けてしまえば、いいのだろうけれど。
「……おまえ?」
「え? えーと……そう、なのかな?」
閉まった扉を、しばし呆然と見つめて。
そう、言葉を交わしてから。
「……おまえがいいんだったら…、俺、もらうけど……」
「え!? あの…えっと……」
もっと早く来ればよかったのに…なんて思っていることは、とりあえず黙っておいて。
彼はじっと、彼女の言葉を待っていた。
彼女を見れば、おろおろと慌てていて。
かと思うと、困り始めて。
「優菜?」
考えているのだろう、それを遮るように、彼女の名を呼べば。
彼女は視線を上向けて。
うー、と声を上げた。
急に言われても…なんて声が聞こえた気がして。
それでも彼は、彼女から視線を外さずに、待っているだけで。
「……珪くんが、わたしなんかでいいんだったら、いい、けど…?」
答えに、笑みを浮かべて。
「『なんか』じゃなくて、充分だ」
本当は、それ以上なのだけれど。
言わずにおいて、彼は彼女に手を差し伸べた。
手を取ってくれた彼女を家に上げて。
そのまま二人で、キッチンへと向かう。
それに軽く、首を傾げられたけれど。
彼女と二人でいるというその時間を無駄にする気はなかったから。
「紅茶でいいか?」
「あ、今日はね。珪くんと一緒でコーヒーがいい」
「どうして?」
「何となく」
…ダメ?
言われて、だめだ、なんて…言えなくて。
緩く首を横に振った。
「わたしが煎れるよ」
「じゃあ、待ってる」
「うん」
頷かれたことに、ほっとして。
彼女の手元を見続ける。
危なくないように。
彼女が何か、失敗したとしても、すぐにフォローができるように。
――だったのだけれど。
「…あんまり、じっと見られてると、変に緊張しちゃう……」
小さく呟かれて、視線を上げた。
頬をわずかに赤く染めて。
彼女の視線が、ちらりと向けられる。
それに短く、「悪い」と零して、彼はシンクに背を向けた。
寄りかかれば、同時に彼女の作業は再開されて。
「毎回見てるだろ? 俺」
「何を?」
「優菜がバイト中…。カウンターに座った時」
「あ。でも…」
「でも?」
「手元、あんまり見えないでしょ?」
「…そうでも、ない」
「………」
「優菜?」
「きっとわたし、もう、珪くんが見てるとこじゃ、煎れられないと思う…」
小さく小さく呟いて。
彼女は手を止めた。
二つのカップに注がれた、茶色い液に微笑って。
それを手にして、キッチンを出る。
慌てたように付いてくる足音と。
「一つ持つよ?」
と声をかけてくれる、その言葉が嬉しくて。
彼女の弟がくれた、彼女と過ごす、この時間。
一秒たりとも逃さないように。
彼はふっと、笑みを浮かべ続けていた。
END
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