何となく、予想はしていたのだけれど。
その通りになればいいな、と思ったりもしていたけれど。
本当にそうなるなんて、思っても見なかった。



Flower




お昼過ぎに、チャイムが鳴って。
彼は特に不審感は抱かずに、玄関のそのドアを開けた。
そこにいたのは見慣れた姉弟の姿。
「よ、葉月」
「珪くん、おはよう…って言うのも、何か変だね?」
「だな」
けど、おはよう。
加えれば、彼女はにっこりと嬉しそうに笑ってくれて。
その弟はその様子に、軽く肩を落としていたけれど。
微笑していたから、彼もふっと笑みを上らせた。
「で?」
「あ、そうそう。誕生日プレゼントを届けに来たんだよ」
そう、尽は言ったけれど。
その手には何も持ってはいなくて。
彼は軽く、首を傾げる。
「プレゼント?」
「そ。当日に渡しても意味ないからさ」
「?」
「あ、夜にはきちんと返せよ?」
「返す?」
「尽、何も持ってきてないのに…?」
姉の言葉ににやっと笑って、尽は彼女の後ろへと回る。
それから。
「ちょ…!
尽!?」
彼女の背中を押して、彼の家へと半ば無理矢理押し込んだ。
そのあと、彼の手で支えられていた扉のノブに、手をかけて。
「ちゃんと返せよ!」
言って、いたずらっぽく笑った、尽の姿は。
バタン、という大きな音と共に、消える。
扉の向こうにいることはわかっているから、扉を開けてしまえば、いいのだろうけれど。
「……おまえ?」
「え?
えーと……そう、なのかな?」
閉まった扉を、しばし呆然と見つめて。
そう、言葉を交わしてから。
「……おまえがいいんだったら…、俺、もらうけど……」
「え!?
あの…えっと……」
もっと早く来ればよかったのに…なんて思っていることは、とりあえず黙っておいて。
彼はじっと、彼女の言葉を待っていた。
彼女を見れば、おろおろと慌てていて。
かと思うと、困り始めて。
「優菜?」
考えているのだろう、それを遮るように、彼女の名を呼べば。
彼女は視線を上向けて。
うー、と声を上げた。
急に言われても…なんて声が聞こえた気がして。
それでも彼は、彼女から視線を外さずに、待っているだけで。
「……珪くんが、わたしなんかでいいんだったら、いい、けど…?」
答えに、笑みを浮かべて。
「『なんか』じゃなくて、充分だ」
本当は、それ以上なのだけれど。
言わずにおいて、彼は彼女に手を差し伸べた。
手を取ってくれた彼女を家に上げて。
そのまま二人で、キッチンへと向かう。
それに軽く、首を傾げられたけれど。
彼女と二人でいるというその時間を無駄にする気はなかったから。
「紅茶でいいか?」
「あ、今日はね。珪くんと一緒でコーヒーがいい」
「どうして?」
「何となく」
…ダメ?
言われて、だめだ、なんて…言えなくて。
緩く首を横に振った。
「わたしが煎れるよ」
「じゃあ、待ってる」
「うん」
頷かれたことに、ほっとして。
彼女の手元を見続ける。
危なくないように。
彼女が何か、失敗したとしても、すぐにフォローができるように。
――だったのだけれど。
「…あんまり、じっと見られてると、変に緊張しちゃう……」
小さく呟かれて、視線を上げた。
頬をわずかに赤く染めて。
彼女の視線が、ちらりと向けられる。
それに短く、「悪い」と零して、彼はシンクに背を向けた。
寄りかかれば、同時に彼女の作業は再開されて。
「毎回見てるだろ?
俺」
「何を?」
「優菜がバイト中…。カウンターに座った時」
「あ。でも…」
「でも?」
「手元、あんまり見えないでしょ?」
「…そうでも、ない」
「………」
「優菜?」
「きっとわたし、もう、珪くんが見てるとこじゃ、煎れられないと思う…」
小さく小さく呟いて。
彼女は手を止めた。
二つのカップに注がれた、茶色い液に微笑って。
それを手にして、キッチンを出る。
慌てたように付いてくる足音と。
「一つ持つよ?」
と声をかけてくれる、その言葉が嬉しくて。
彼女の弟がくれた、彼女と過ごす、この時間。
一秒たりとも逃さないように。
彼はふっと、笑みを浮かべ続けていた。

END

 

っていうか。
バレバレですよね?(苦笑)
どうしても書きたかったんです、それでも!

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