手を繋いで
二人きりのその空間へと足を踏み入れて
それでも彼女は笑顔で、そこにいて
つられるように、彼も笑みを浮かべる



First




部屋に入って早々。
彼がやりかけだと言った、その前に座り込み、彼女は唸り声を上げている。
たった一つの欠片を探し出すその指先を見つめ、彼はふっと笑んでいた。
邪魔はせずに、ただ見つめるだけ。
そばに置かれたカップからは、わずかに白い湯気が立ち上って。
「……ないよ?」
すべて調べ終えたらしく、彼女は少し泣きそうな顔で、彼を見上げる。
「そうか?」
「うん。珪くん、どこかに落としちゃったんじゃない?」
「そんなわけない」
「でも…なかったよ?」
首を傾げて、べつの場所へと当てはめようと指を動かしていく。
そんな彼女に向き合うように、途中のジグソーパズルを挟んで座り込む。
「なかったのか?」
「なかったよ?
だからね、ほかのところを埋めていこうと思ったの」
「そうか」
「うん。一つ残れば、それがここのでしょう?」
先ほど、ないと言った場所を指し示し、彼女は言う。
「で、足りなければ、珪くんがなくしちゃったってことになるし」
「俺はなくしてない」
「そんなのわからないでしょう?」
頬をわずかに膨らませて、彼女は言葉を綴った。
それに、彼は「わかった」と含み笑いで答えて、手伝っていく。
「こっちはね、違ったやつで、こっちはまだ」
「ん」
二人で覗き込んで。
二人で手を動かして。
時々、彼は顔を上げて、彼女の表情を盗み見て。
その近さに、少し、驚いて。
不埒なことを考えようとする思考を振り払うように、頭を振ってみたりしているのだけれど。
彼女の方は、そんなことはお構いなしに、目の前のパズルに躍起になっていて。
それが――おもしろくなかったりして。
小さく、彼女に聞こえないように、小さく――嘆息。
「優菜」
「んー?」
「優菜」
「何?
珪く…」
顔を上げた彼女の唇に。
自分のそれを、ほんのわずか、押し当ててみたりした。
案の定、彼女は顔を真っ赤に染めて、目を丸くして。
「……っ!」
言葉もなく、身を引く。
その反応に、嬉しくなって、彼は目を細めた。
「どうした?」
「だ、だって……」
「続き」
「や、やる。…けど」
「けど?」
ちらっと上目で見て、彼女はすぐに俯いて。
けれど。
「……珪くん、ずるい」
呟いて、口元に固めた手を当てる。
「ずるいか?」
「ずるいよ」
「何が?」
「急なんだもん」
「……」
「べつに…いいんだけど」
ゆっくりと手を離して。
彼女はまた、パズルに向かおうとする。
子供のいたずら程度のこと…だったのだけれど。
よくよく考えれば、そういうことで。
その手を取って。
「珪くん?」
「………」
上を向いた彼女と至近距離。
視線が先に絡まって。
瞼を閉じるのと同時に、唇が重なって。
触れるだけのそれは、すぐに離れたけれど。
「……つ、続き」
慌てたように、彼女は下を向く。
繋いだ手をパズルの脇に置いて、逆の手で。
「……かわいい」
顔を赤く染めて、必死に平静を保とうとしているその姿に彼は感想を漏らす。
と、彼女の顔はますます赤くなった。
「かわいいとか言わないでよ!」
不満を漏らしてから、すぐに手を動かして。
それに倣いながら、彼は繋いだ手に力を込めた。
友達から恋人へ。
そうやって進んだのが、今、この瞬間なら。
この先に進むには…どうすればいいのか。
そんなことを考えながら、そばの暖かさを感じながら。
触れながら。
ピースを隙間に埋めていく。
二人で。

END

 

初キスシーンを、と意気込んだのは本当なんですけど。
何かが違う気がするのは、なぜなんでしょう?
でもま、かわいいからいっかぁ!(自分で書いたくせに照れてたヤツ)

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