それを言われると
ちょっと辛いでもでも
僕は僕
それ以外のものには
どうやっても
なれないと思うんだよね
FINE
本日晴天。
いい天気。
絶好の花見日和!
そう思いながら、公園の中へと、瞳を向けた。
わずかに見えるピンクと。
同じような色をしてそうな、たくさんの人の声。
それに、ふっと笑みを浮かべると。
膝の上にいた子が、やんわりと顔を上げた。
「みんな楽しそうだねー?」
「…ニャー」
「葉月くん、遅いなぁ……」
「………」
そのことには、興味がないみたいに、少し濃い、茶色の毛を持ったその子は、また顔を下げて。
一・二度、長いしっぽを振る。
頭を軽く撫でて。
その暖かさに、笑みを浮かべて。
僕はそこで、ぼんやりと、たった一人の相手を待っていた。
少し、早く出てきたかも、っていう自覚はあったけど。
着いてから見た時計は、たった五分前の時間を指していただけで。
それからすぐに、この猫さんを見つけて。
遊んでたんだけど。
立ってるのに疲れて、階段の端に、腰掛けたら。
猫さんはゆっくりと、僕の膝に手を掛けて、乗ってくれた。
それからすぐ、寝る体勢に入られちゃったんだけど。
起きてるよ、っていう、意思表示なのか。
撫でると少しだけ、しっぽを動かしてくれる。
仲良くなれたことが嬉しくて、その子をずっと、見てたら。
「…悪い」
上から、そう声が降った。
「……遅い」
「悪い」
本当にそう思ってるのか、彼は少しだけ、バツの悪そうな顔を覗かせて。
息を吐いてから、肩を落とす。
「何分遅刻?」
「……十分」
「明後日のバイトで、スタッフさんたちに言い振らしてやろー」
「………」
「葉月くんてば、日曜日に、十分も僕のこと待たせたんですよー?
って」
「おまえ……」
「悪いのは君でしょ?」
言い放ってから、膝の上の猫さんに、「ごめんね?」って声を掛けて。
そこから、降ろした。
そうしてから、立ち上がると。
彼はじっと、まだそこに居続けている猫さんに、視線を落としていて。
僕は小さく、首を傾げてみる。
「どしたん?」
「そいつ……」
「ん? うん。仲良くなった」
「……俺」
「うん」
「懐かれたこと、ない」
「………」
紡がれた言葉に、少し、驚いて。
それから、大笑いしちゃった。
くすくす笑って。
目に、涙溜めて。
そうすれば、彼にわずかに睨まれる。
「ご、ごめ…!」
「……いい。べつに」
「ごめんって!」
かなり落ち込んでる彼に、まだ笑いながら、謝って。
笑いをどうにか、押し込めてみる。
その間に、彼は猫さんへと、手を伸ばしてたけど。
すぐに威嚇されて、慌てて手を引っ込めてた。
それにも、僕は笑っちゃって。
でも、彼が手を離したことで、落ち着いた猫さんに、手を伸ばす。
僕には触らせてくれるのになー。
思って。
それに、こうやって、猫さんの方から、擦り寄ってきてくれるのに。
彼の何が、そんなに嫌なんだろう?
考えながらも。
「また会った時に、遊んでね?」
そう、伝えてから、手を離した。
小さく手を振って。
まだ憮然としている彼の隣りを歩き出す。
背後からは、小さな鳴き声が、響いてきた。
あーあ、なんて思いながら、歩道を見つめる。
綺麗なピンク色は、そっちにはあって。
こっちにはない。
何のために、お弁当作ってきたんだか、わかんないじゃん!
そう思って、小さく息を吐いた。
桜の下で食べようと思ってたお弁当は、もうすでに、お腹の中で。
それに、ぷくっと頬を膨らませる。
彼は、そんな僕の隣りで、欠伸を零してた。
僕の行動には、一切触れてこないままで。
仕方なく、僕もそのことは、諦めることにした。
諦め切れるかはともかく――無理だろうけど――その話は、出さないことにして。
また今度、来ればいいんだもんね。
そう思っているところからして、諦め切れてないんだけど。
「葉月くんはさ、ここ、お気に入りじゃん?
森林公園」
「……お気に入り?」
「結構、好きじゃない? ここ」
「ああ…、だな」
「よく来るの?」
「撮影で…よく使うんだ、ここ」
「なるほど」
言って。
瞳に入ってきた人物に、僕は焦点を合わせる直前。
耳に入ってきた言葉に、彼の首へと、手を掛けた。
僕の方に身体を倒させて。
無理矢理、僕の膝を枕として使わせる。
草の背が、高いのもあるけど。
彼の顔の前辺りには、バッグがあるから。
見えないとは思うから。
「なっ…!」
「シーッ」
声に出さないまま、息でそう届ければ。
視界の端。
女の子二人は、きょろきょろと周りを見渡して。
「あーん、見失っちゃったぁ!」
そう、零してた。
やっぱ、彼のファンだったか。
思いつつ、二人が見えなくなるまで待って。
通りの向こうへと行ってしまった二人の背に、手を離した。
「はい、もういいよ」
言いながら。
「おまえ…」
「? 何ー?」
「女…だろ?」
「だね? それが?」
「…女らしさとか、ないよな」
しみじみ言われて、瞬き。
女らしさ?
「何でそれが、今ここで出てくるのさ?」
「何でって……」
「今したこと? 僕の頭の中は、君を隠さないとってことで、いっぱいでしたが」
「だから……」
「僕らの間にあるのは、男と女って物じゃないでしょ?
僕らは友達。デートに来たわけじゃなくて、遊びに来ただけなんだから」
「そう…だけど」
「けど、何さ?」
頬を膨らませると、彼は吐息。
「第一、今日は芝生の方でゆっくりする予定じゃなかったんだから。今日の目的は、お花見だったの」
「……ああ」
「けど、人がいっぱいだから、嫌だって言ったのは、君」
「…知ってる」
「人込みに紛れちゃえば、少しは目立たなくなるかもしれないのに。人のあんまりいないこっちでって言ったのは、君」
「…わかってる」
「だからね? 目立っちゃって、見つけられちゃうのは、当たり前なんだよ?
自業自得」
「………」
「でも、僕が煩わしいの、嫌いだから。君を隠したの。OK?」
「…わかった」
「じゃ、来週はお花見で」
言えば、彼は眉根を寄せて。
僕はにっこりと、笑みを浮かべる。
勝手に決めて、時間も告げてみたりして。
それから。
「とにかく、人目に付かない場所には、移動しようか。彼女たちの視界に、僕は入ってないと思うけど。一応」
「ああ」
片づけて、立ち上がって。
どこがいいかと、見渡していると。
「…こっち」
なんて、腕を引っ張られた。
引っ張られながら、先を歩く、彼の背を眺めて。
時折、周りに視線を巡らせて。
そうしながら着いたのは、周りを、背の高い茂みに囲まれた、ほんの少し、広めの場所。
「……隠れ場所?」
「そんなとこ」
くすくす笑いながら、彼のあとを追いかけて、そこへと入る。
樹の幹に寄り掛かるように、腰を下ろせば。
その隣りで、彼は木の根を枕にでもするかのように、寝転んだ。
それを見た直後、目の前の茂みが、ガサガサと、音を立てて。
そこへと、二人で視線を注げば。
「ニャー」
って、茶色の猫さんが現れた。
「………」
「ここ知ってたの、君だけじゃなかったみたいだね」
「…だな」
笑いながら、手を差し伸べれば。
その子は真っ直ぐに、僕のそばまで、来てくれて。
さっそく、膝の上に乗ってくる。
その子を撫でて、空を見上げて。
来週も晴れればいいなって、思ってた。
……ら。
「痛っ」
膝に爪を立てられて。
僕は、その子を見る。
と、手を引っ込めている彼がいて。
僕はまた、笑っちゃったりしてた。
END
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