今日がどういう日かは知っている。
だからこそ…渡したいものがあった。
なのに。
ANGEL
目の前。
思い描いていたその形になっていない物を見て、彼は息を吐く。
間に合わない。
そんな気がしていたから、代わりの物を用意してきてはいるけれど。
「…違う」
呟いて。
壁にかかっている時計を振り仰ぐ。
時間には、できるだけ間に合うように行きたいから、もう諦めるしかなくて。
ため息を吐いて、彼は大きく肩を落とした。
今日、この日に。
そう何度も思っていたのに。
思えば思うほど、うまくいかなくて。
忙しい合間を縫って、デザインを考えて。
考えるたびに、何かが違うとしか、思えなくて…苛ついて。
それでもどうにか形になってくれた物に満足する間もなく、造りはじめて。
まとまった時間が取れた時に、ここに足を運んで…がんばっていたのだけれど。
造り始めても、急ごうと思えば思うほど。
慌ててしまって…手元が狂った。
そして苛ついてしまって。
落ち着こうとする時間でさえ、惜しくて。
「また来ます」
工房の奥、銀の塊と格闘している人物にそう言葉を届けて。
応えるように挙がった手を視界の端に見て、彼は外へと出た。
一度家へと戻って、着替えて。
それから会場である、理事長の家へ。
やらなければいけないことを順に並べて、彼は眉根を寄せた。
そこで思い出した。
バッグの口を開けば、そこには綺麗にラッピングされた箱がある。
たぶん、無理だろうと思ったから…買ってきたもの。
彼女は、確かに喜ぶだろうと思う。
それでも、代わりにと用意しただけだったから…バッグの奥底に押し込めた。
どこにでもあるようなものを渡したいわけではないから。
ただ一つのものを…そう思うからこそ、自分の手で、と決めたのだから。
――とりあえず、去年見つけたやつを……。
考えながら、歩いていく。
耳にざわめきが飛び込んでくる。
彼の名を紡いだ声もあったけれど、それには気を止めずに――あるいは、聞こえていなかったのかもしれないけれど――彼は歩を進め続けた。
今日がどういう日かは知っている。
だからこそ、と…そう思っていたのに。
頭を振り、彼はその考えを払拭する。
諦めるしかないのだと、そう考えたからこそ、自分はここにいるのだ、と考え直す。
プレゼント交換をまた今年もやると聞いた。
付き物なのだろうと、そう思う。
また、彼女に自分の物が渡ってくれれば。
彼女の物が、自分に渡ってくれれば。
………。
考えはじめたことに、彼は短く息を吐く。
そんなことを考えても仕方はない。
誰に渡るかはわからない。
確率は低いけれど、彼女の手に渡るということも考えられる。
ただ――それだけのことで。
誰の手に渡るかわからないのなら、これは、無駄にならなくてすむかもしれない。
ただ、それだけのことでしかなくて。
立ち止まって、そこへと押し込んだ物を外へと出す。
誰に渡るかはわからない。
けれど、彼女に渡ってほしいと思う。
彼女の笑みが、ただただ、見たいから。
彼女の笑みを、ただただ、自分は望むから。
そして自分も…笑いたいから。
「がんばれ」
小さく呟いて、足を踏み出す。
――とりあえず、家に帰って……。
差し迫る時間。
それに遅れないようにするために、彼は順番を間違えないようにと、また考え出す。
彼女に会ったら、何を話そう。
彼女は何を話してくれるだろう。
そんなことも思いながら。
年に一度の天使のいたずらが、去年に引き続いて、今日もまた…起こることを期待して。
END
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